元来人類が持ち得ていた生きるための応用力を遊んで学ぶ
現体制で本誌を作りはじめたのが第15号(実質の創刊号)からなので意識していなかったが、今号で地味に50号を迎えた。年6回刊の隔月雑誌ゆえ、第1号からすでに8年以上の時が経過している。今でこそ中東のテロリストやマリファナについて一考したり、メキシコの日常とも言える麻薬カルテルの処刑現場を掲載したりする順当なアウトドア雑誌となったが、当初を振り返ると資本主義に迎合した似非であった感が否めない。
というわけで今号は、遅ればせながら本誌第1号で行った“電車でも行ける初心者キャンプ”的特集を50号の節目に修正したい(ほぼ差し替え)。舞台は当然キャンプ場、既製のテントを立てるだけでは味気ないのでシェルターはタープで自作する。考えてみると最近の特集は立木が乱立した林間野営が主で、立木間にロープを渡せば即屈強なシェルターが張れる好条件であった。昨今の天災を振り返ると、ここらで市街地や何もない平原でシェルターを張る訓練もしておいた方が良いだろう。週末は近くのキャンプ場に出向いて、自身の知恵と技術を磨いてほしい。
いざとなればブルーシートでも代用可!
タープシェルターの勧め
“電車でも行ける初心者キャンプ”を本誌が提案する上で、まず“初心者”という点では技術的な難度など関係ない。いざとなれば逃げ帰れるキャンプ場を使うこと自体が初心者要素であり、様々なことに挑戦して、何度でも失敗して良いのだ。
続いて“電車でも行ける”を考えるなら、先の初心者要素と合わせてタープとポールさえあれば完結するシェルター設営に挑み、荷物の軽量化を図ることをお勧めしたい。キャンプ場ゆえに直火は禁止……となると焚火台などの装備も必要となるため、減らせる部分は容赦なく削ろう(何度もいうが、減らしすぎてもキャンプ場なら死ぬことはない)。
最後に重要なのは、初心者でも一人で野営してみることだ。ここで紹介するシェルターはその辺にあるブルーシートや布、物干し竿や枝などでも作れる(命の危険が迫る有事なら拝借しても怒られないだろう)。ただし、一人で設営する技術がなければ、いざという時に子供や老人を守ることはできない。色々なことを想像して、自力で試すキャンプは初心者~玄人を問わず面白いはずだ。
じっくり腰を据えて挑戦するキャンプが面白い
POINT.01
ータープシェルターに見合う装備の軽量化を図るー
せっかくタープとポールだけで完結するシェルターに寝泊まりするなら、他の装備も軽量化してスマートな電車移動スタイルを実現したい。シェルター装備と同様にかさばりがちな寝具がその代表格で、例えば防寒着を兼ねたシュラフ、雨具を兼ねたシュラフカバーなど、兼用アイテムを駆使することで大幅な荷物削減を達成できる。
夜露対策と防寒性向上に繋がるシュラフカバーは必須。ここではスナップボタンで筒状にできるヘリコンテックスのポンチョを使った。SOLのサバイバルブランケットはグランドシートに使えるほか、タープ的な活用もできるので便利。
シュラフ兼防寒着として使えるヘリコンテックスのスワグマンロールは、ポンチョに並ぶ人気サバイバルアイテム。着用時もしっかりと身体にフィットするので動きやすい。
POINT.02
ー焚火台を使用しても火熾し~焚火型に拘るー
直火禁止のキャンプ場でもサバイバル技術の鍛錬は十分にできる。メッシュ製焚火台に代表される火床スペースが大きくフラットなモデルならロングファイヤー型などの焚火型(本誌別冊『完全焚火マニュアル』参照)が設置できるゆえ、別途にゴトクを用意せずとも調理だってこなせるのだ(装備の軽量化にも◎)。
装備軽量化を図り、状況に応じてソロストーブを用いても良いだろう。少ない焚きつけに確実に火をつけるサバイバル訓練にも役立つ。
POINT.03
ー汎用性のある道具で野営の可能性を広げるー
小さな失敗すら死に直結する野生環境とは違い、キャンプ場なら様々な挑戦ができる。例えば近頃アマゾンで散見する格安のアウトドアギアだって、キャンプ場なら壊れても問題はないのだ。ここで準備が十分整ったら、いざ野生環境へ出かければ良い。
今回はアマゾンで売っていた格安のケブラーコードを試してみた。予めキャンプ場で耐火性や強度を試しておけば、フィールドに出た際も躊躇なく使える。
立木のないキャンプ場で手軽に強固なシェルターを作る
バイポッドシェルター
Basic Plan
暴風に負けない屈強なシェルターを設営したければ、数トンもの耐荷重性を備える立木を活用するのが一番。しかし、何もない平原にそれなりの強度を備えたシェルターを立てるなら「バイポッド」を使わない手はない。これは2本の棒を束ねて二股に開いただけの簡単な道具だが、シェルター強度、ソロキャンプ時の設営難度、シェルターの居住空間確保に大いに役立つ。
BASE GIMMICK
BIPOD[バイポット]
ー現場では木枝でも代用できる応用性抜群の強靭な支柱ー
ポールでも枝でも物干し竿でも作れるバイポッド。その利点は①バイポッドの傾斜と逆方向にガイラインで引いておけば自立すること、②支柱のない居住空間を確保できることだ。
DODの「フタマタノキワミ」を使えば誰でも簡単にバイポッドシェルターが設営できる。フタマタノサソイ部と12本の(中継ぎ10本/土台2本)のセットからなり、角度調整機能により300㎝まで高さ調整が可能だ。参考価格1万3500円(税抜)問ビーズ050-5305-9905
-Basic Plan.01- THE TARP TENT
テントに劣らない居住性が手に入る
バイポッドを用いたタープシェルターの代表格で、その名の通り、テント顔負けの居住性を確保できる耐候性に優れたシェルター。3×3mの一般的なスクエアタープを用いても十分な居住空間が確保できるほか、設営初期のペグダウン位置さえ掴めれば設営難度もかなり低いため、まだ開放的なタープシェルター泊に慣れていないエントリーキャンパーにもお勧めできる。見た目は玄人感に溢れるゆえ、キャンプ場に張れば注目されること間違いなし。
SIDE
シェルター前方に頂点があるため、居住空間へのアクセスも比較的良好。バイポッドも邪魔にならない位置に収まっているので◎
BACK
基礎は開口部から末広がりの台形。タープシェルターには三角型の基礎が多いが、同シェルターはタープがグランドシートを兼ねない分広い。
LIVING SPACE
ー大人2人が寝られる余裕のスペースー
3×3mのスクエアタープを使った場合、SOLのオールシーズンブランケット(1.7×2.3m)がすっぽり収まる居住空間を確保できる。大人2人での野営もできるだろう。
SAMPLE GEARS
せっかくテント型のシェルターを設営するのであれば、装備品もそれなりに使い勝手重視の選択がしたい。軽量なメッシュ式焚火台を用いれば電車移動も十分に可能だ。
HOW TO MAKE
STEP.01
開口部を作りたい辺を手前にして、3×3mのスクエアタープを正対に広げる。この時点でC、Dの角はペグダウンしておく。
STEP.02
続いて同シェルター設営のハイライトとなる開口部のペグダウン。1辺に4つのタブがつく一般的なスクエアタープを例にすると、両角をそれぞれ1つ内側のタブがある位置でペグダウンすると良い(角AならA’の位置。ペグを置いて目安にすると楽だ)。
STEP.03
こうして四隅をペグダウンできたらタープの前方を手で掴み上げ、四隅から均等な張りが得られる頂点を探す(4方向へ均等な折りができる)。ここがバイポッドを使って吊し上げるポイントとなる。
POINT
より防風性を高める 開口部バリエーション
「STEP.05」で側面後方へ引いた開口部のたるみだが、クロスするように引けば開口部が詰まる。そして開口部中心のタブをどちらかの側面へ引けば、フルクローズ一歩手前まで開口部を絞ることができる。環境に応じて就寝時のモディファイに取り入れたい。
STEP.04
吊り上げポイントを探し出せたら、そこに小石とクローブヒッチを使ってガイラインを接続(結び方はP25を参照)。少し前方に傾くようバイポッドを設置し、先ほどのガイラインを股に掛けて後方へ流して、末端を地面にペグダウンする。
小石とクローブヒッチを使ったガイライン接続法はかなり強力。生地の薄いタープを使用する場合は表裏に当て布をしておいた方が安心だ。
タープを1点で支えるゆえ、後方へのペグダウン箇所には相当な力がかかる。ここには長めのペグを使用してしっかり固定したい。
STEP.05
タープを吊り上げると開口部にたるみができるので、両サイドのタブをガイラインで引き、シェルター側面後方へペグダウンする。ペグダウン位置は本体固定と兼ねて、シェルター側面のタブに重ねると良い。
STEP.06
最後に開口部中心のタブをガイラインで前方に引き、小さな庇(ひさし)を作って完成。その際、短いポールを用いてガイラインを平行に渡せば、ランタンなどの小物吊り下げスペースとなるのでお勧めだ。
-Basic Plan.02- CLOSED WEDGE
最も単純な方法で耐候性が得られる形
最も簡単に開口部をクローズできるシェルターを設営したいならウェッジ(くさび)型がお勧め。先のタープテントもそうだが、林間では立木にガイラインを結んで吊り上げる、あるいは1本の枝を支柱にして押し上げるのが通常。とはいえ今回は立木のない条件で、かつ居住空間を最大限に確保するためバイポッドを用いている。
EXTERIOR
見た目も非常に単純だが、すべての面が三角になるため風をいなし、バイポッドで組むことにより強度が上がるので耐候性もそれなりにある。
LIVING SPACE
ー大人1人なら余裕の三角型居住エリアー
設営が簡単になるかわりに居住空間は後方両隅から前方中心へ伸びる二等辺三角形。ど真ん中に寝床をおけば大人1人が寝られるサイズ感だ。左右スペースは物置になる。
SAMPLE GEARS
フラッとキャンプ場に訪れてサッと建てられるシェルターゆえ、デイキャンプのシェード代わりにもちょうど良い。装備も必要最小限で楽しんでみると良いだろう。
HOW TO MAKE
STEP.01
開口部を作りたい辺を手前にして、3×3mのスクエアタープを正対に広げる。この時点で後方両隅はペグダウンしておく。
STEP.02
続いてバイポッドの股部を前方中心のタブ上に置き、両者を短いガイラインなどで繋げておく。この際、できるだけバイポッドの股~タブ間を近づけ、タイトに繋げておくと仕上がりが綺麗だ。
タブは「STEP.03」でバイポッドを前方へ引くガイラインと直接結び、バイポッドの股に一巻きして連結、固定する方法もある。
STEP.03
仕上げはバイポッドを前方に傾ける形で立て、バイポッド股部へ新たにガイラインを結びつける。続いてガイラインを後方両隅のペグダウンポイントと均衡する力で引いて、前方の地面へペグダウン。最後に開口部の角をペグダウンすれば完成だ。
バイポッドを前方へ引くためのガイラインをペグダウンした後でも、バイポッドの傾きを修正することで全体の張力を調整できる。
POINT
日中の活動時はウィング状に
開口部のペグダウンを解いて、かわりにガイラインを結びつけてサイドへ引けばウィング状の庇(ひさし)ができる。状況に応じて片側~両側を開き、居住~作業スペースを調整したい。
-Basic Plan.03- BIVIBAG CORNET
防風防寒性に富んだミニマムシェルター
シェルター開口部に干渉しないバイポッド構造なら、よりサバイバルに適した完全ソロ仕様シェルターの実用性も向上する。ここで紹介するビビィバッグコルネットは抜群の耐候性を得る代償として開口部が狭く、立木への吊り下げが必須(ワンポール構造では寝床に入れない)だが、バイポッドを用いれば立木のない環境でも実用できる。
EXTERIOR
極限まで低く構えたフォルムと張り出した庇(ひさし)は、シェルター内の防寒だけでなく耐候性(特に風)にも長けている。
LIVING SPACE
ーサバイバルに余分な空間は不要ー
防寒性を考えると、外界に触れて空気を冷やしてしまう余分な空間は不要。体温で暖まる大人1人のぴったりサイズこそが正解なのである(必要に応じて開口部は装備品で覆う)。
SAMPLE GEARS
極小シェルターに極限まで切り詰めた装備で一夜を過ごせば、それだけで有用なサバイバル訓練になる。ここで防災用品を試してみるのもあり。
HOW TO MAKE
STEP.01
開口部を作りたい角を手前にして、3×3mのスクエアタープを広げる。この時点で後方の角はペグダウンしておく(ペグダウンポイントA、Bは「STEP.03」参照)。
STEP.02
続いてバイポッドの股部を前方角のタブ上に置き、両者を短いガイラインなどで繋げておく。ウェッジと同様、できるだけバイポッドの股~タブ間を近づけ、タイトに繋げておくと仕上がりが良い。
連結のバリエーションもウェッジと同様。バイポッドを前方へ引くガイラインと直接結び、バイポッドの股に一巻きして連結してもいい。
STEP.03
用いるタープサイズに合わせてバイポッドの足を短縮して立て、ペグダウンポイントA、Bが地面にペグダウンできるよう股の角度を調整する。A、Bをペグダウンしたら余ったタープをグランドシートとしてシェルター内に折り込む。
ポールにより短縮方法は様々だが、ゴムで連結されているタイプも折り返すことで調整可能だ(ゴムを傷める可能性はある)。
STEP.04
最後にバイポッド股部へ新たにガイラインを結びつけ、ウェッジと同じく後方角のペグダウンポイントと均衡する力で引いて、前方の地面へペグダウンして完成だ。