【vol.50】菜の花をいただきま〜す

去年の気象はなんだかヘンテコで日本の自然界も色々と狂っていた。特に生き物は普段見られるものが見られないなど観察者を悩ませた。年が明けてもなんとなく冬らしくない、あまり冷え込まない冬になった。寒いのは苦手ではあるが、冬じゃないとできない遊びがたくさんあるので冬はやはり寒くないとつまらないものだ。最近でいうと、2月下旬から3月に産卵するアカガエルが1月終わりに産卵が始まったり、菜の花があちこちで咲いたりと春の訪れが平均よりかなり早くきた。私の場合は、このアカガエルの産卵行動をきっかけに、里山に春が来るタイミングを毎年いろんな場所で観察していてる。春の訪れをほとんどの人は梅や桜で判断するが、私は里山の最初の春はアカガエルで始まる。その後、トウキョウサンショウウオと梅で、しばらくすると菜の花が咲き、越冬していた蝶が飛ぶ。だいたいこんな流れだ。これは、関東周辺の春の目安で、地域が変わるとこの春の訪れも違ってくる。雪国ではこれらの出来事がほとんど同時に始まるなど、その場所や地域で様々な感じ方があるのだ。

今回は春の到来にふさわしい菜の花。この菜の花、意外と奥が深い。例えば、観光地で「菜の花が満開です!」などのニュースを聞くと思うが、これはおおよそ植えた菜の花で、セイヨウカラシナなどの園芸種。そもそも、菜の花とはなんなのか、おわかりだろうか? 実は、アブラナ科の野菜の花をまとめて「菜の花」と呼んでいるのだ。だから、キャベツの花も大根の花も、菜の花である。川の土手などに咲き乱れる菜の花はセイヨウアブラナとセイヨウカラシナ。日本にもともと生えていた植物ではなく、野生化したものだ。スーパーなどで、菜花(なばな)として並んでいるものは、畑で食用に栽培したもの。そしてこのアブラナの仲間は、交雑が激しく観察してもどっちがどっちかわからなくなる。

今回のテーマ、菜の花は自然界の土手に咲くセイヨウカラシナとセイヨウアブラナ。この両者の花芽を摘んで食べた。まずは土手に出かけ、菜の花を探す。どこの川の土手にも生えるので探すのはそんなに難しくはない。花が咲いていればわかりやすいが、葉だけだとなかなか区別はつかない。ところが今回のロケで観察していて発見した。茎から伸びる葉のつき方で、セイヨウアブラナかセイヨウカラシナかを判別することができる。セイヨウカラシナは茎から伸びる葉が茎に襟巻のように包む感じでつく。そこを見れば判断がしやすい。また、花でも特徴が違い、セイヨウカラシナの方が花が小ぶりでまとまって咲く花の数も少ない。しかしこの見方は比べないとわからないこともあるのであくまでも参考でとなる。花芽は食べたい部分だけを爪を立てて爪の力で摘み採る。せっかくなので川を下り、海に近い河原でハマダイコンの花芽も採集し食べ比べることにした。ハマダイコンは栽培種のダイコンが野生化したものと言われており、菜の花には変わりない。アブラナ科の植物が野生化して土手に生えるのはこの3種類。コマツナやハクサイなどは、なぜ野生化しないのか不思議だが、改良の仕方でできなくなっているようだ。しかし、長い年月が経てばひょっとすると土手にアブラナ科の野菜が自然に増えてしまうこともあるかもしれない。なかなか植物の世界も奥が深く面白い。この春、菜の花を見たら、カラシナかアブラナか調べて食してみてほしい。

どこの川の土手にも咲き乱れる菜の花。実は「ナノハナ」は花の種類の名前ではない。菜の花とはアブラナ科の大きなくくりの総称だ。じゃあいったい名前はなんなのか? 調べてみよう。

もうすぐ春が来るぞというタイミングで、川の土手には緑に茂る株が目立つ。その中には菜の花の仲間もちらほら。川の土手で食べられる植物は多く、私はこれらを山菜に対抗して土手菜と呼んでいる。

土手を見て回ると蕾をつけたアブラナ科の植物がある。これはほとんどがセイヨウカラシナなのだが、よく見ると2種類あるようだ。

見えた! ここが違うのか。茎から伸びる葉のつき方が違う。茎を巻くように葉が出ているのはセイヨウカラシナ。茎からすっと伸びるのはセイヨウアブラナ。共に野生化したアブラナ科の植物。アブラナ科は交雑するようで見分けも難しい。

積み方は簡単。柔らかいので手で摘む。花芽の食べたいところだけを軽く爪を立てて摘み取る。できるだけ花芽が多く茎の太いものがいい。花芽の数でも見分けがつく。多い方がセイヨウアブラナだ。

おひたしで食べ比べ!

 

1.3種類の菜の花を食べ比べてみることにした。簡単かつ味がわかりやすいおひたし。まずは流し水であらう。

2.塩水を沸騰させ摘んできた花芽を1分間茹でる。塩の量はそれぞれだが私はややしょっぱくなるくらい入れる。

3.約1分茹でたら取りさらい、流し水にさらす。熱が冷めたところで取りだし、束ねて手で握り水分を絞って出来上がり。

大根も食べてみる

ハマダイコン・セイヨウアブラナ・セイヨウカラシナ共に根は大根だ。引っこ抜いて食べてみることにした。

1.大根の部分をすりおろし、生で食べる。繊維質が栽培した大根とは明らかに違う。水々しさが全くなく繊維質丸出しな感じ。

2.右からセイヨウアブラナ・セイヨウカラシナ・ハマダイコン。どれも小さいが立派な大根。大根の部分で見分けるのは困難。

右からセイヨウアブラナの葉は甘みがあり大変美味しいが、大根は一番まずい。セイヨウカラシナの葉は辛味があり大変美味しく、大根も辛く美味しい。ハマダイコンの葉は苦味と辛味が強いがうまく利用すれば美味しく食べられそうで、大根は苦味が強い。

菜の花図鑑

春の畑などで見かける菜の花。これは野菜たちの花だ。葉ものは、花が咲く前に摘んでしまうので花を見ることができないが、放置されたものは花を見ることができる。右上から①コマツナ・チンゲンサイ②キャベツ③ダイコン④ハクサイ⑤ブロッコリー。チャンスがあれば畑へ行って見てみよう。これらも、花芽は食べることができる。ブロッコリーはそもそも花芽が食用。

日本野生生物研究所 奥山英治

主にテレビ番組やアウトドア雑誌や本などを中心に、自然遊びや生き物の監修などで活躍中。「触らないと何もわからない」をモットーに子供向けの自然観察会も行っている。著書に『虫と遊ぶ12か月』(デコ刊)などがある。