最小装備で実践する野営は良き防災訓練にもなる
ー生きるために何が必要かを考えるー
災害にまつわる出来事として、カスタムナイフの巨匠・相田義人氏からこんな話を聞いた。
阪神淡路大震災の復興が進む中、兵庫の某デパートに呼ばれてナイフメインキングの実演をしていたときのことだ。相田氏がそこでナイフの刃付けをしていると、お婆さんから「あなたは道具がいっぱい付いたナイフは作れるの?」と尋ねられたという。相田氏はしばし考え、お婆さんがマルチツールを探していることに気づき、丁寧に「私はそのようなナイフは作らない」と断った上で売り場を教えてあげたというのだ。お婆さんは「缶詰は送られてくるのだけど、それを開ける道具がないの」と言って去っていった。
このことが何を表しているのかと言えば、一つ、お婆さんの生活は缶切りだけでなくナイフも必要な状況にある(缶詰を開けるだけなら缶切りを探す)、二つ、災害は紛れもなく、ナイフを持つ正当な理由に該当するということだ。全人口をカバーする避難所が用意されていない以上、特集冒頭にある「命を守るための最善の行動」が要される非常事態において、命は自身の責任で守るしかない。その時、何を携行しているかによって選択できる生存への道筋の数はかなり異なるだろう。
ここでは「サバイバル野営BASICS」で挙げたテクニックを優れた道具に置き換え、より確実なサバイバルを実践するための装備例を展開していきたい。
個人生存装備一覧
応急サバイバルテクニックを 優れた道具に置き換えて生存率UP
特集冒頭の通り、ナイフ一本で生活を成り立たせる火熾しやシェルター設営、浄水器制作などのサバイバルテクニックは、それぞれ道具に置き換えることができる。つまりはそれら道具を揃えることで、より確実に、過不足なく野外を生き抜ける個人生存装備一式が完成するのだ。また、ここでは野外生活に欠かせないマルチツールや浄水器などの鉄板アイテムに加えて、ライトやモバイルバッテリーなど、日頃のフィールドワークに活用できる、かつ実際被災した際に重要となるアイテムもピックアップしている。必要に応じて選択してほしい。
【KEY ITEM】 マルチツール
すべての野外生活はこの道具から成り立っている
そもそも手持ちの装備を想定していないサバイバルテクニックであってもナイフ(マルチツール)の使用が前提となっていることからして、これが如何に重要な装備かが分かるだろう。基本的にはナイフ、ノコギリ、缶切り、リーマーがあれば、多くの作業ができる。
【KEY ITEM】 ポンチョ
レインウェア+αの万能性が役立つ
雨風の遮断能力についてはレインウェアのセットアップに敵うものはないが、タープやグランドシートなど、ポンチョにはいざという時の万能性が備わっているのでお勧めしたい。
【KEY ITEM】 浄水器
現代文明エリアでの使用も考慮して選びたい
防災となれば現代文明エリアでの使用も前提にしなければならない。森林フィールドにある清流ならそのまま飲むことも可能だが、街を流れる河川の水には煮沸でも滅菌、消毒できないものが含まれている場合もある。浄水器は自身の周辺環境を考慮した上で選ぶべし。
【KEY ITEM】 ライト・モバイルバッテリー
防災力を飛躍的に高める準プライマリー装備
光源は焚火、電気製品は使わないという日頃の野営とは違い、サバイバルギアとしてなくてはならないのがライトとバッテリーだ。どちらも携行性と容量のバランスが決め手になる。
【KEY ITEM】 ワンバーナー
火力や耐候性だけでなく燃料の入手性も重要
普段は調理も焚火で行うという野生派アウトドアマンであっても、防災道具としての有用性を考えるならバーナー装備は外せない。無論、燃料の入手性も考慮するべきだろう。
ADD ITEM
HELIKON-TEX
SWAGMAN ROLL
環境次第で追加したい 万能の防寒装備
温暖シーズンかつ晴天の野外環境なら“ゴロ寝”で夜を明かすこともできるが、気候次第では必須のサバイバルギアとなるのが防寒装備。先に紹介したプロモンテの「ダウンマルチポンチョ120」やここで紹介しているヘリコンテックスの「スワグマンロール」は、ポンチョ同様、優れた万能性を有しているので装備に加えておきたい。
本体を囲むようにレイアウトされたジップを閉めれば、サマーシーズンのシュラフに早変わり。ポンチョシェルターを作り、行動着のまま潜り込めば、それなりの寒冷気候にも対応する。
テフロン加工済みアウターシェルにより、少しの水気や汚れなら遮断してくれる。保温性に優れた中綿「CLIMASHIELD APEX」と相まって、暖かなグランドシートとしても使える。