【vol.49】第17回 伝統保存食入門

レバーペースト

加熱のいらない保存食材をいろいろ用意しておくというのは屋外生活や野外の遊びに慣れた人間の発想である。イギリスを中心としたヨーロッパではこの手の文化が非常に発達している。そういえば、ムーミンママも、保存食作りが得意だったような気が……。

レバーペーストを持ってキャンプへ!

内臓系の食材は、大好きな人とまったく食べられない人との、完璧に2極化するように思う。僕は前者でホルモン焼きもモツ煮込みもレバニラ炒めも、沖縄の中身汁も大好きだ。レバ刺しは諸般の事情、および制限によって現在、日本では食べられなくなってしまったが、あれは非常に残念であった。ちなみに、肉食獣は獲物のどこから最初に食べるかというと、レバー(肝臓)からだそうだ。おいしくて栄養豊富なのがちゃんと分かっているのである。

レバーを食材とした料理は焼き肉にしてもレバニラ炒めにしても、いかにも「パワー系!」な感じがするのだが、今回のレバーペーストはちょっとオシャレな一品だ。ねっとりした食感と独特の風味で、サンドイッチやカナッペの具材にもってこいだ。この手のものを保存しておくと、来客時だけでなく、ふとした夕方に「白ワインでも飲もうかな」などと思った時に、非常に役に立つ。

そして、レバーペーストのカナッペと白ワインを最もおいしく味わえるのは、家の中ではなく、いい風の吹く屋外である。カエルやモグラなどの動物たちが主人公の小説「たのしい川べ」にはコールドチキン、ハム、パテなどをピクニックバスケットいっぱいに持って川下りをするシーンがあるのだが、読み返すたびに仕事などほっぽり出して、キャンプにでかけたくなってしまう。

【材料】豚レバー200g、タマネギ1/4、ニンニク1かけ、ニンジンすり下ろし大さじ1、ショウガ小1かけ、卵1個、バター20g、塩小さじ1,ブラックペッパー小さじ1,ナツメグ(パウダー)小さじ1/2、日本酒大さじ2

【作り方】
1.豚レバーは塊のものは薄切りにしてから、日本酒とすり下ろしたショウガの汁に30分ほど漬けておく。レバーの香りをできるだけ残したいという人はこの段階は省く。
2.①を細切れにして、さらに叩く。挽肉器があるなら使うのもいい。
3.卵は固ゆでのゆで卵にして、細かく刻んでおく。
4.みじん切りにしたタマネギとニンニクをバターでじっくり炒める。
5.②と③、すりおろしたニンジンを加えてさらに炒める。
6.塩、ブラックペッパー、ナツメグで味を付ける。少しだけ塩が強いかな、と思うくらいでちょうどいい。
7.すり鉢とすりこぎで、念入りにすり潰す。ムーラン(手動の漉し器で目の粗さが変えられる)を使うのもいいだろう。
8.煮沸消毒した保存ビンか、小分けにしたいなら小振りの器にいれて、熱して溶かしたラードを注ぎ密閉する(ラードは冷えると固まるので密閉ができる)。
9.サンドイッチにはさんで食べてもいいし、クラッカーにのせて刻みパセリを散らしてカナッペにするのもいい。

レバーは当然、色つやの良い新鮮なものを使用すること。塊を買うよりも焼き肉用のスライスしたものを買う方が調理の手間が少なくて済む。断面が見えるので、鮮度も一目で分かりやすい。

バターでタマネギ、ニンニクがしっかり炒めてからレバー、卵を投入すること。塩やスパイス類の量はお好みで調整。この段階で食べても十分うまいが、我慢。

すり鉢とすりこぎですり潰す。僕は半量を念入りに、半量を粒が少し残る程度にしている。均一化してしまうより、その方が食感が楽しいように感じるからだ。

写真・文 鈴木アキラ

1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。