ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。
今回の酷道
静岡を横断する
急坂の天空酷道「酷道362号」
静岡県静岡市葵区〜静岡県浜松市天竜区
国道362号は愛知県豊川市と静岡県静岡市を結ぶ一般国道だ。静岡県の二大都市である浜松市と静岡市を、北へ大きく迂回してわざわざ山越えルートで結んでいる。そのため全線を通して利用する人など、まずいないだろう。道幅が狭くヘアピンカーブが連続し、地図を見るだけで酷道要素が多い路線だと分かる。
静岡から浜松を目指して走っていくと、安倍川を越えてしばらくは快走路が続く。県道32号との分岐を過ぎると、酷道区間が姿を現す。
“連続雨量120ミリを超えると通行止になります”
こうした雨量規制の看板を見ると「酷道に来たなぁ」という実感が湧いてくる。ここから川根本町の大井川にぶつかる手前まで、30㎞ほど断続的に酷道区間が続く。
酷道区間に入ると“注意CAUTION”と書かれた警戒標識が目に留まった。これは、昭和46年に廃止された旧標識だ。それ以前に設置されたものが、半世紀近く経てもなお、撤去されずに残っているのだ。これには、ロマンを感じずにはいられない。
さらに進んで行くと、急な上り坂とヘアピンカーブが連続する。普通道路の勾配は、法令により上限が9%と定められているが、それを上回る勾配が次々と現れる。12%や、ついには15%という勾配まで現れた。法令を超越する勾配が当たり前のように存在するのも、酷道の特徴といえるだろう。
軽自動車で頑張って急な坂道を上ってきたが、意外と交通量が多く、度々対向車との行き違いで足止めされた。驚いたのは、こんな道をダンプカーが頻繁に行き交っていることだ。道幅いっぱいのダンプカーが対向してきたら、こちらが退くしかない。
間もなく大井川というところに、前後をバイパスに挟まれた酷道区間が存在する。まるで取り残されてしまったかのようだが、バイパスの中間1.6キロ間だけが未完成なのだ。バイパス未開通区間のトンネルは2003年に完成しているが、その他の区間の工事が難航しており、15年以上経っても供用されていない。
川根本町から大井川沿いを南下し、2車線の快走路が続く。下泉のあたりで西に分岐すると、再び酷道区間が始まる。酷道を走っていると、山の上から下までびっしりと広がる広大な茶畑が見えてきた。近くには“天空の茶産地川根”と書かれた看板が立っている。ここ川根は、静岡県の中でも川根茶の産地として知られている。川根茶は標高が高い山間地特有のお茶で、細長い針状の茶葉をしている。濁りの少ないスッキリとした飲み口と、お茶本来の甘みが特徴だ。そんな天空の茶畑の中を、国道362号が横断している。
その後も、対向車との行き違いに大きな苦労はしない、比較的緩やかな酷道が続く。程よい刺激と美しい天空の光景が広がり、普通のドライブに飽きてきた人には、ちょうどいいドライブコースかもしれない。
ロマンを感じる旧制標識。
天空の茶畑をゆく。道幅は狭いが、最高のドライブだ。
鹿取茂雄
酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://www.geocities.jp/teamkokudo/