ツリーハウスで快適に過ごすには薪ストーブが必要だ。湯を沸かし暖をとる。北風が強くこの地域でも寒さが厳しいとされるこの森で、生きるための道具を自分で作り出す。生活への第一歩だ。これも処分される物の再利用で生み出す。考える楽しさが生活なのだ。
写真・文/荒井裕介
捨てる神と拾う山男 ロマンの工作
実家に転がっていたフロンのタンク。なぜそんなものがあるのかというと、親父の仕事が業務用の冷凍冷蔵庫の設計・販売で、エアコンの取り付けなんかもするからだ。親父の工場の片隅に処分待ちタンクが数本あったのに目をつけ「これくれる?」と聞いたらゴミだぞと言って親父がくれた。拾った角パイプの切れ端と自宅にあった素材。買ったのはナットと鉄板だけ。市販の薪ストーブのスペックを見るとどれも大きなリビングや山小屋全体を暖めるサイズで、僕の作ったタイニーハウスのようなツリーハウスにはオーバースペックだった。見合ったものがないなら作るしかないのだが、お金をかけるのも僕のポリシーには反している。廃材を資源として利用できるからこそ、そこに新たな価値が生まれる。僕的な言い方(屁理屈)では地球に優しい物作りなのだ。
僕には娘がいるが、「物を大切にしろ!」と言っている。命や物の大切さにちゃんと向き合ってもらいたいと、日ごろから僕の考えを押し付けている。だからこそ自分で作れるのだというところを見せたい。それに僕らにとって特別になる。ただの貧乏症かもしれないが、こんな時代だからこそ大切な価値観のように思えるのだ。溶接技能士の資格を持っているので親父の作業場で溶接機を借りて早速製作。設計図もなしでフルスクラッチだ。とはいえやってみるとそれほど難しくない。薪ストーブはロマンの塊だが、森で暮らすには実に便利な複合器具だと思う。もしそんなロマンを抱くのであれば是非挑戦してみてほしい。
森に棲むならアウトドアマンの夢を実現したい!?
薪ストーブを作る
今回は比較的入手しやすいアーク溶接機のみで制作する。作り方のコツはためらわずすることだ。設計図すら作っていない現物合わせでここまでできる。ガスタンクはエアコン設置などをしている電気店でももらえる不用品だ。挑戦する場合は電気店に相談してみるものありだ。その他の材料は廃材やホームセンターで入手できる。使用した工具の大半はレンタルもあるぞ。
1.これがフロンガス用のガスタンク。コンパクトで軽量だ。軽量ということは鉄板が薄く加工は楽だが溶接にはコツが必要になる。
2.ガスタンクの持ち手部分をサンダーで切り落とす。この作業の前に念のためタンク本体にはドリルで穴を開けておくと安心だ。
3.カットラインをマーキングする。といっても全て現物合わせなので大まかな採寸でいい。あまり最初から大きな穴を開けない方がいい。
4.ラインに沿ってサンダーで切り落とす。角の部分は切りきれないのである程度切ったらハンマーで叩いて落とすといい。
5.天板を乗せる部分もカットしておく。これで煙突穴以外は全ての切り取り作業が終了となる。なんとなく形が見えてくる。
6.羽の部分を作る。無垢の丸棒を切り出し炙って曲げる。これを2つ作るだけだが鍛冶仕事で曲げて同じサイズにするには慣れが必要かも。
7.角パイプに穴を開けM10のボルトを通す。これがエアインテークのベースになる。緩み防止ナットを使うと動いても緩まない。
8.アングル材を枠状に溶接して仮組みする。この時タンク側を削って微調整してはめる。あまり隙間が大きいと溶接では付かなくなってしまう。
9.溶接箇所をサンダーで削り整える。この時煙突穴もアセチレンガスで切り落とした。ジグソーではアールが強すぎてできなかった。
10.ストーブの脚や強度の弱いところを補強し溶接していく。溶接は必ず保護メガネをして行うこと。裸眼で行うとしばらく目が見えない。
11.溶接後可動部の動きをチェックしスムーズな動きになるように微調整を行う。これでほぼストーブの形状になる。
12.塗装の剥離。耐熱塗料を塗る前にタンクの塗装を剥離する。溶剤は使わずにバーナーで炙った後、ステンレスのたわしで落とす。
13.扉のハンドルにはスプリングで熱対策を行う。熱くならないエアインテークには折れたスパナを溶接してハンドルにした。
14.耐熱塗料を吹き付ける。この塗料は市販品だが、塗装後に熱を加えることで安定するので燃焼させるまでは少しベタつく。
完成!
煙突を1本追加してテスト燃焼の準備ができた。ここから燃焼の具合やエアインテークの効果、塗装の焼け具合などをチェックして終了になるのだが、我ながらよくできたと思う。これで快適な暮らしが手に入る。
ブッシュクラフター 荒井裕介
12月に入ってからほとんど山の中にいる山岳写真家。家に帰るのか山に帰るのか? どちらが正解か最近不安になっている。ブッシュクラフトで越冬に挑戦しようと本気で準備中。狩猟期間なのでなんだかソワソワしとります。
ドキドキの火入れ! 機能するのか僕の手作り
耐熱塗料の焼き入れとテスト燃焼をするべく火入れをした。特に設計図があったわけではないのだがなんとか形になったストーブに火を入れる。燃焼してもちゃんと暖かいのか? お湯は沸くのか? 緊張の瞬間だ。
ストーブ全体が暖まると煙が見えなくなる。ストーブ上面の鉄板に手をかざすと暖かい。ホーローのポットを乗せると直火ほど早くはないが湯が沸いた。近くにいるだけで十分暖かい。
ストーブのサイドには保温スペースを設けた。よほどのことがないと熱くはならないのでククサも置ける。一時的な置き場はあったほうがいい。
白樺で火入れ。焚付けを入れて本燃焼になると勢いよく燃えだした。煙突から立ち上る炎は白からほぼ透明になる。煙突から覗くと程よい燃焼具合なのが見えた。やった! 成功だ。