ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。
今回の酷道
1400年の歴史を刻む生活感あふれる浪漫酷道「酷道166号」
奈良県大和高田市〜大阪府羽曳野市
日本で最も整備が行き届いているはずの国道が、酷い状態のまま時代に取り残されている酷道。これまで、山間部の酷道を中心に紹介してきた。今回ご紹介する国道166号は、市街地型の酷道だ。山間部のような切り立った崖や急こう配、落石等はなく、線形も穏やかだ。民家が道路に近接しているなど、市街地ならではの事情によって拡幅工事ができず、酷道のままになっている。
岐阜から大阪へドライブするにあたって、高速道路や名阪国道といった主要路線はあえて外し、マニアックな道だけを走り続けていた。奈良県内から国道166号に入り、大和高田市街地で本線が右折・左折すると、センターラインが消え、一気に道幅が狭くなった。市街地だけに交通量が多く、対向車がひっきりなしにやって来る。左右に民家が迫っているため待避スペースもなく、サイドミラーぎりぎりで対向車をかわす。踏切を越えてさらに道幅が狭くなると、西向きの一方通行となった。生活道路にしか見えないが、これでも立派な国道だ。
住宅地を抜けると2車線の幹線道路に復帰し、大阪府との県境を難なくクリア。県境の峠は酷道ではないのに、奈良県内と大阪府内の市街地にそれぞれ酷道区間を抱えているという、変わった酷道だ。
大阪府羽曳野市の近鉄大阪線・上ノ太子駅前から、再び道が狭くなる。道幅は奈良県内の酷道区間よりもさらに狭く、対向車との行き違いは不可能だ。もしも対向車が来たとしたら、どちらかがバックして道を譲るしかない。緊張感を持って酷道区間に突入する。民家と民家の間をすり抜けてゆくこの細い道が国道だなんて、言われなければ絶対に分からないだろう。
沿道には木造の家屋が建ち並び、立派な石垣や土壁が歴史を感じさせる。昔ながらの商店も見受けられ、路面には“通学路”の文字もあって、生活感が色濃く感じられる。集落の中心を貫く国道は、拡幅されることなく酷道のまま歳月を重ねてきた。そのため、国道を中心とした集落も、昔ながらの姿を今に残しているのだろう。
この国道166号は、日本最古の街道と言われている“竹ノ内街道”を踏襲している。竹ノ内街道は、1400年前の飛鳥時代に官道として整備された道で『日本書紀』にも記されている。飛鳥時代に最も重要な道であったことは、そのルートから容易に想像できる。人々の往来は飛鳥時代以前から多く、道そのものの歴史はさらの数百年遡るといわれている。遣隋使の使節も通った街道が、今なお現役の生活道路として利用され続けているというのは、何とも浪漫のある話ではないだろうか。
そんな浪漫に思いを馳せていると、辺りはすっかり暗くなっていた。朝早く出発したはずなのに、まだ大阪の目的地に着いていない。それに、この日は大阪がゴールではなく、日帰りで戻らなければならなかった。思い出したかのようにピッチを上げ、先を急いだ。
国道の脇を川が流れ、対向車が来たら転落しそうだが、風情がある。
路面に書かれた20の文字。国道なのに最高時速20キロ。
鹿取茂雄
酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://www.geocities.jp/teamkokudo/