【vol.43】四駆を自在に使いこなすためのクロスカントリー基礎テクニック

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軍用車を源流とする四輪駆動車は機能を優先した無駄のない道具として生まれ、その姿には奥深い機能美が宿っている。時代は変わり用途が荷役やレジャーに変わろうと四輪駆動車としての骨子は変わらない。「目的地まで必ず辿り着き、帰還するという使命」ただしそれには相応のスキルを持った使い手が必要だ。特にクロスカントリーを旅するとなれば次元の異なるドライビングテクニックが要求され、さらに応急修理術や十分な装備も必要となる。クロスカントリーテクニックといえば簡単だがドライビングのみならず、知識と勇気と判断力、そして溢れんばかりの好奇心が必要なスポーツなのである。

文/竹村吉史  写真/山岡和正・山崎友貴


 

クロスカントリー四駆は 悪路を走ってこそ 真価と魅力が感じられる

四輪駆動車が要求される場面というと都会人は雪道を思い浮かべるが、この類い稀なる走破性能が持たされた自動車のあるべき地はクロスカントリー、つまり山野である。整備された林道や除雪された雪道を走るのであれば流行のSUVに乗っていれば事は足りるが、クロスカントリーをはじめ荒野やデザート、泥濘地、はたまた荒れた災害地を走破するとなると本格的なクロスカントリー四駆が必要になる。

耐久性にも優れたこの四駆は、複雑な機構の搭載を避けることで、トラブルを被った際でも僻地からの生還確率を高めてくれるのだ。

この逞しい四駆を頼もしい相棒にするには、オフロードを走らせるドライバーのスキルも必要だ。一般路で体験するスリップや上り坂といった危ない道とは一線を画す道がオフロード。まず路面が平滑でないため、気を抜いて運転しているとタイヤを浮かせてしまい、前進すらままならなくなってしまう。

車体と路面の干渉を避けながら、前後4輪のトラクションを探り、サスペンションストロークと相談しつつ最適なラインをトレースしながら悪路を走破する、いわば3Dドライビングなのである。基礎テクニックをマスターし、それを臨機応変に使えば、クロスカントリー4WDが持つ本当の楽しさが分かるはずだ。

クロスカントリー走行 基本中のキホン

舗装が終わったら四駆へ 転ばぬ先の杖は 惜しまず使うべき

オフロードはオンロードとは大きく異なり、オンローダーがパンクしたと思うほどタイヤのエア圧を落としたり、スロースピードで足がすくむような急坂を上り下りするなど、それまでの一般常識が通用しない世界だ。

そこで多くの人が間違いを犯しやすいトランスファーの切り替えタイミングに触れておきたい。本格的なクロスカントリー四駆であれば、トランスファー(副変速機)が装備されているが、パートタイム式の場合は2H、4H、N 、4Lなどと切替レバーに記されている。一般路走行はハイレンジの二輪駆動である2H、雪道や平坦な林道などはハイレンジの四駆となる4Hをセレクトすれば良い。Nはニュートラル、さらに激しいオフロードではローレンジの4Lを使うこととなるのだが、大概のユーザーは走行が困難になったりスタックしてから4Hまたは4Lにシフトしているという実態がある。車両の体勢が悪い状態に陥ってからのリカバリーは大変なので、常に先を読んだ行動が必要。分かりやすくいえばスケートリンクに入る前にスケートシューズを履くタイミングと同じことなのだ。

オフロードに立ち入る時は、路面状態を見て4Hか4Lをセレクトするのが最低条件だと覚えておこう。

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Loレンジに入れるタイミング

トランスファーを持つ四駆はハイレンジとローレンジがセレクトできるが、ローレンジに入れるタイミングは急坂や激しいラフロードに進入する前が正解。ローレンジは低いギア比でエンジンやクラッチなどへの負担を減らし、桁違いの駆動力を発揮する。

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はやる気持ちを抑えて エア調製

オフロードに乗り入れる前に、これから走るべき路面コンディションに合わせてタイヤのエア圧を調整しよう。エア圧は車両毎に異なり、適正エア圧はドアを開けたBピラー周辺や取扱説明書に記載されている数値がベースとなるが、ほとんどの車が標準空気圧を超えるエアが充填されている。エアを抜くことでタイヤの接地面積が増すが、タイヤのバンプが抑えられてトラクションが逃げにくくなるのが一番の効果。もちろんタイヤの変形によりトレッド部で掴んだ泥を接地面を離れた時に放すという泥抜けの良さにも貢献するが、エアを抜けば最低地上高も下がるため路面の状況判断が必要となる。最初は指定空気圧マイナス10〜15%ほどで感触を掴んで欲しい。

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傾斜地での駐車に注意

傾斜地に車を駐車する際は、ステアリングを山側に切って停める。まっすぐや谷側だと車が動き出してしまった際に大惨事になりかねない。山側なら動いたときも被害を最小限に抑えられる。サイドブレーキに併せ、AT車ならPに、MTなら1速に入れることも重要。

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積載物の固定は確実に!

積載物は壊れないから大丈夫と手を抜くユーザーもいるが、実は安全面からもオフロードでは荷物の固定が必須となる。体勢が不安定なときに重い荷物が動いてバランスを崩してしまったり、衝撃で荷物がガラスを割ったり乗員に当たるなど危険な目に晒されるからだ。

己を知らねば悪路は制せず

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パートタイムとフルタイム

パートタイム式はコーナリング時に前後輪の回転差でブレーキが掛かるが、この「タイトコーナリング現象」を克服したのがフルタイム式。フルタイム式は1輪が空転しただけでセンターデフにより他の3輪が止まってしまうが、センターデフロック機能が付いたフルタイム式なら、パートタイム式と全く変わらない走破性を発揮することができる。

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3アングルとコーナーアングル

四輪駆動車のスペックを表現する際に使われる3アングルは、クロスカントリーの走行性能に直結する数値で、どれも大きいほど有利に働く。実際のクロスカントリー走行では車の四隅が路面に接触することが多く、それを避けるためコーナー部のアングルに余裕を持たせた設計が施されている。走る上で重要なコーナーアングルも意識しておきたい。

1.アプローチアングル 2.デパーチャーアングル 3.ランプブレイクオーバーアングル 4.コーナーアプローチアングル 5.コーナーデパーチャーアングル

 

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リジッドアクスル式と独立懸架式

SUVなどに採用されている独立懸架式サスペンションは、路面追従性と乗り心地が良いが、クロスカントリーでは下回りのクリアランスと頑丈さ、そして「てこの原理」で同軸反対側のタイヤを押しつけるリジッドアクスル式に軍配が上がる。

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腹下を記憶

車体下部には様々な出っ張りがあるが、それらを岩や石などに干渉させないために愛車の腹下のレイアウトなどは記憶しておきたい。車によっては繊細で致命的になる部品が露出しているため、路面に触れないようにライン取りをする努力が必要だ。

地味ながら重要なドライビングポジション

正確なオペレーションは 正しいポジションから 慣れるまで我慢しよう

クロスカントリーに入ったらドライビングポジションを調整するように言われることが多いが、実は日常でも同じポジションでドライブすることが安全上大切なこと。オフロードに限らず、F1でもWRCでもドライバーはちょっと窮屈そうなポジションで運転している。その姿勢が安全に確実に操作できるから自ずとそうなるのであり、クロスカントリーでもそのドライビングポジションのセットアップは変わらない。

シートに深く腰をかけ、ブレーキペダルが奥まで余裕を持って踏み込めるか、背もたれに背と肩を付けた状態でステアリングのトップが握れるか、この二点を守るだけでドライビングスタイルが格段に向上する。

クロスカントリーでは30度を超える傾斜地に車を乗り入れることがあり、その時にシートクッションが沈み込んでステアリングに手が届かなくなったり、ブレーキペダルを奥まで踏めなくなったりしてしまう。さらにシートベルトのリトラクター機能によって身体が固定されてしまい、再発進操作すらままならなくなってしまったケースもある。

万人向けに設計された車であるため、装備された各部の調整機能だけでは自分のベストポジションが見つからない場合もあるが、カスタマイズするか極力ベストに近いドライビングポジションを見つけて慣れて行く努力をしたい。

ドライビングポジションのポイント

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1.アゴを引いて自然に

頭をまっすぐにアゴを引いて自然体で座る。背筋もきちんと伸ばしておかないと背骨や頸椎を痛めてしまう可能性もあるので注意が必要。正しく座ればアイポイントも高く、前方視界から得る情報量も多くなるのだ。

4.シートに深く座る

純正のシートは広々としているものが多いため、何となく腰を降ろしてしまいがち。そんなシートでも深く腰をかけることで腰の落ち着く場所が見つかるはず。シートポジションの基準点になるためしっかり座ろう。

2.シートバックは立て気味

ステアリングに手を添えた際に腕が軽く曲がる位置は、おのずとシートバックも立ってくるもの。慣れるまでは少し窮屈にも感じ、ステアリングさばきがラフだとドアに肘を当てるかもしれないが、しばらくの辛抱だ。

5.リフト機能も利用しよう

車によってはシートポジションの調整量を増やすため、シート座面を高くするリフト機能などが装備されたものもある。あるべき機能はフルに利用して、自分にぴったりなベストポジションを見つけたい。

3.肘が軽く曲がるように

ステアリングの10時10分付近を握ったとき、肘が軽く曲がる位置にポジショニングしよう。この時点で肘が伸びきっていると、背中がシートバックに付いている状態ではステアリングを回すことができない。

6.ペダルをしっかり踏めるか

シートに深く腰掛けた状態で、膝に余裕を残しながらブレーキペダルやクラッチペダルを床までしかっり踏めるように。ヒルクライムを失敗したときなど、しっかりとブレーキを踏めないと坂で止まれない。

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シートバックに肩を付けた状態で手がステアリングトップに届いても、肘にはこの位の余裕が欲しい。クロスカントリーでは基本的にこの状態より手が先に行くことはなく、送りハンドルと引きハンドル操作でコンパクトに完結する。

基本的な ステアリングさばき

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ステアリングは7時と11時、5時と1時の間を握り、送りハンドルと引きハンドルを使って円滑に操作する。オンロードでは送りハンドルが推奨されているが、クロスカントリーではタイヤエア圧を低めに落としていることもあり路面からの思いがけない外力が加わるため、両方の手でステアリングを回すのが確実な方法。大きな舵角で右に左に地形を走破する時は、クロスハンドルで一気に回したくなるが、速度をしっかりと落として正しいステアリングさばきで走破しよう。

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ステアリングを握る際、路面からのキックバックでステアリングが急に回され、指の骨を折る危険性があるため親指はステアリングに沿わせておく。またパワーステアリング装着車も、エンストしたときにキックバックが発生するので油断は禁物。

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一度に大きな舵角が得られるからと言っても、内掛けハンドルはけっしてやらないように。この持ち方はとっさの時に逆方向へのハンドル操作ができず、万が一エアバッグが開いたときに大怪我をする確率が高いのだ。

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クロスハンドルは交差点や駐車時などでは便利だが、クロスカントリー走行中には極力避けたい操作方法。操作中瞬時にステアリングを修正しなくてはならない時、手がクロスしていると即座に対応できないことが理由だ。

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クロスカントリーシーンでよく見るドライバーの姿勢。車と同じ傾斜で乗車しなくては、人間の両内耳にある三半規管が車の正しい傾斜と傾きが増しているかを検知することができない。両耳を結ぶ線は車体と水平になるよう保持しよう。

クロスカントリー走行で忘れがちなポイント

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窓は全閉か全開の二択

ドアのウインドウは全閉または全開のどちらかにしよう。画像のように中途に開いていると、顔面をガラスの縁でぶつけたり痛い思いをするからだ。またダムの近くや水場付近での走行時は、脱出口確保のため全開にしておこう。

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常に満タンが基本

燃料が切れてしまうとさすがの四駆でも何ともならない。山の周辺にはスタンドがある保障がないので、クロスカントリーに踏み入る前に燃料は満タンにしておこう。また燃料携行缶を持って行けば安心この上ない。

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竹村吉史

アウトドアパークブロンコオーナー。オーストラリアや中国西域のデザート、ボルネオのジャングルなどで得たノウハウを元に、正しい四駆の使い方を啓蒙している。