ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。
今回の酷道
2018年9月開通!まさかの新設酷道!「酷道416号」
福井県勝山市〜石川県小松市
近年、酷道が次々と消えている。日本における道路の最上位に君臨する国道が、未整備で酷い状態のまま維持されているのが酷道の魅力だ。いわば“ギャップ萌え”である。我々酷道マニアの興味の対象だが、一般の利用者からすれば不便なだけだし、管理者にしてみれば先進国としての沽券に関わる問題だ。
そうして酷道が整備されてしまい、味気のない立派な国道になってしまう。整備前の道が旧道として残るケースもあるが、都道府県道や市町村道に格下げされることがほとんどで、酷道ではなくなる。酷道を完全に解消することは難しいかもしれないが、ここ10年での減少は著しい。この先も減少することは必至で、悲しいかな、いずれ消えゆく運命にあるのは間違いないだろう。
しかし、2018年9月、驚くべきニュースが飛び込んできた。消えゆく一方だと思っていた酷道が、新たに誕生したというのだ。国道416号の福井〜石川県境の大日峠区間は、これまで国道として繋がっていなかった。通常、こうした分断区間を新たに開通させる場合、たとえ前後の区間が酷道の状態であったとしても、今後整備されることを見越して、高規格で造られる。しかし、この大日峠区間は、最初から1.5車線の“酷道”として計画され、そして2018年に開通したのだ。
こんなニュースを聞くと居ても立ってもいられなくなり、9月の週末、早速現地を訪れた。
福井県大野市から北へ向かって走ると、集落を抜けて山間部へ入ってゆく。センターラインが消え、舗装が真新しくなった。目的の新規開通区間だ。ガードレールや道路標識、カーブミラーも何もかもが新しい。林道であれば普通の光景なのだが、ここは国道である。違和感しかない。新しいのは設備だけではない。最新の技術も駆使されている。カーブは綺麗な曲線を描き、ハンドルが切りやすく設計されている。バンクもついていて、道幅こそ狭いが、非常にスムーズに走行できる。
酷道なのに走りやすい。そんな現代の酷道を走っていると、大日峠に到着した。ここで石川県に入り、峠を下りはじめる。
県が変われば道路が変わる。福井県ではガードレールが設置されていたが、石川県ではコンクリートの駒止が設置されていた。ガードレールと同等の機能を果たす駒止は、林道でよく見かける。国道に設置されていることもあるが、例外なく色あせている。ピカピカの駒止が国道に設置されている光景は、とても新鮮だ。
峠を下ると、新設区間は終了した。しかし、この先には昔からの酷道が続いている。普通車でギリギリの幅員しかなく、ガードレールや駒止も設置されていない。そんな酷道が、牛ヶ首峠を越えて小松市街まで延々と続いている。この昔ながらの酷道だけでも、十分に走り甲斐がある。
新技術を駆使した走りやすい酷道と、昔ながらの走り応えのある酷道。その両方を楽しめる、素敵な酷道が誕生した。
県境の大日峠。
平成最後の酷道を抜けると、昔ながらの昭和な酷道が待っていた。