都市郊外の住宅地にもうまいものは生息中
近所でサバイバル
文/服部文祥
捕まえてから料理になるまでの長い道のり
放し飼いにしているニワトリの中に、鶏舎で飼われていたニワトリを混ぜたことがある。後から来たそいつは完全に「ここはどこ? 私は誰?」だった。まず、周りのニワトリたちが普通に食べているもの(生ゴミと虫と雑草)を何も食べられなかった。野外で活動したことがない体は、動きも鈍く、放し飼いのニワトリたちに置いてけぼりにされていた。
配合飼料しか食べられなかったそのニワトリと、放し飼いのニワトリには食べ方に違いがあった。放し飼いのニワトリは、食べ物らしきものを一瞬ジッと観察し、クチバシで咥えてからワンテンポ考え、つつくなり、飲み込んだりするのである。鶏舎で育ったニワトリは、配合飼料をがっつくだけ。
間抜けの象徴のように言われるニワトリでも、自分で庭を歩き回らせ、自分の食べる物を自分で探させれば、すこしは賢くなるのである。
思えば、釣りや銃猟のとき、私もいろいろ頭を使っている気がする。
「獲物は狩る側を教育する」が一般論だと仮定して、現代生活を見るとどうだろう。われわれは、子どもたちに配合飼料を与えるだけになっていないだろうか。もし、近所のタンパク質を子どもたちに獲ってこさせたら、頭は良くなるし、旨い食べ物は手に入るし、将来、食糧難の時代を迎えてもたくましく生きていける。いやまてよ、そもそも大人はどうなのだ?
食料品店で食べ物を買うだけではバカになる? それは単なる仮定の話なのだろうか。
都市の近くにも旨い生き物は生息している。努力して捕まえ、食べておいしい生物の多くは外来種である。もともと食用で輸入したのだからあたりまえだ。ウシガエル、ブラックバス(以上特定外来生物)、アメリカザリガニ、ミシシッピーアカミミガメ(生態系被害防止外来種)などなど。
ブラックバスを除く3種はとくにおいしい。多くの人が捕まえて、食べようとしないのが不思議なほどだ。
都会を流れるドブ川の獲物は、化学物質による汚染がすこし心配だ。だが、中国産野菜やアメリカの遺伝子組み換え穀物、もしくはそれらを飼料に育てられた家畜家禽より、ドブ川で生きている生物の方がよほどクリーンである(と私は信じる)。
法律もハードルの一つである。特定外来種は、捕まえても生きたまま運搬することが法律で禁止されている。だが食材としてブラックバスの鮮度を保つ為に、大きな水槽とエアポンプを用意する人間はいない。食べるなら〆て内臓を出し、軽く塩をふって持ち帰る。生きたまま運ぼうとする人間は、近所の池でブラックバス釣りを楽しもうと考える不心得者に決まっている。ウシガエルは違う。生きたまま運ぶのに手間が掛からないので、生体を運んで、調理前に〆るほうが旨い。ウシガエルを近所に放したい人はいないだろうから法律規制はブラックバスだけにしてほしい。
ある8月の服部家のタンパク質。ウシガエルのモモ肉は絶品である。脂が少ない肉なので唐揚げなどが良い。アオダイショウのぶつ切りも素揚げにして食べた。肉は素直な肉味である。
ウシガエル
20世紀初頭にアメリカ合衆国から食用として輸入された。カエルの肉は概してうまい。そのうえウシガエルは体が大きく、繁殖力も高い。戦後は逆に、日本からアメリカへ数百トン単位で輸出されていたという。養殖や野生種の捕獲が産業として行なわれていたわけだ。現在、野生化したウシガエルは、在来種を駆逐する外来種として世界的に悪評が高い。日本でも生体を持ち歩くと違法となり、罰則も厳しい。
夜行性のため暗くなってからの方が活動も活発になり獲りやすい。夜には警戒心も弱まる。活動期間の6月から9月くらいの夜にウシガエルのいそうなところに毛バリやルアーを垂らせば、飛びついてくる。
持ち運べるのは死体だけ。鮮度を落とさないようにできるだけ早めに調理したい。皮を引っ張って切れ目を入れ、皮を剥く。腹を切り開いて内臓を出し、関節に刃を当てるようにしてバラバラにする。脂は少ない肉なので鶏のささみと同じように料理すればよい。
アオダイショウ
低山から住宅地まで日本国中のどこにでもいる一般的なヘビ。日本本土のヘビの中ではもっとも大きくなるようだ。口や肛門などから青臭い独特の匂いを出し、それが手に付くと臭い。肉も青臭いという報告と、肉に臭いはなくうまいという報告がある。今回食べた肉は旨かった。ヤマカガシの苦みに比べれば、絶品と言ってもいい。
ヘビを捕るには、先が又になった棒を用意して、それで押さえてからクビをつかむとよい。棒が2本あると確実性が増す。今回のアオダイショウは卵狙いでニワトリ小屋に侵入し、捕獲された。アオダイショウだとわかったので、素手で捕まえたが、二匹目のに噛まれた。歯は鋭いので、噛まれると皮膚が切れる。
生かしておく場合は、すこし水を入れたペットボトルに入れ、空気穴をあけて、涼しいところに置いておく。そうやって日時をおき、消化物を除くと内臓も食べられる(美味)。解体は頭を落として、靴下を脱がすように皮をむく(この行程はすべてのヘビで同じ)。食べるには骨がうるさい生物なので、丹念に叩いてミンチにする、もしくはじっくり揚げるなどが料理法。
アメリカザリガニ
ウシガエルのエサとして来日し、もはや日本中にはびこった外来種。汚い水でも生息する。都会のドブ川に生息する個体を食べるのは尻込みするが、泥抜きすれば旨い。素手でも、網でも、釣りでも獲れる。大物を効率よく獲るには釣りがよい。仕掛けは、1〜2メートルほどの竹の棒に2メートルほどの凧糸を付ける。釣り場の広さや水深、網の柄の長さで、凧糸の長さは調節する。
蜂蜜
2016年の春から友人の勧めで西洋ミツバチを飼いはじめた。かねてから日本ミツバチを飼ってみたいと思い、いろいろ調べていたのだが、西洋ミツバチも日本ミツバチもそれぞれ、長所短所があるようで、種にこだわらず、とりあえず手近な西洋ミツバチからはじめることにした。西洋ミツバチは飼いならされているぶん、ハチミツの収穫量が多く、飼いやすい。害虫や外敵などに弱いのが特徴。約1万匹の群れを3万円くらいで売っている(販売シーズンは春)。
ハチミツは透き通るような甘みでとてもおいしい。隣家の庭に咲く花々からミツバチたちに少しずつ蜜を集めさせていると考えると、ちょっとコソドロ的な罪悪感も感じる。
燻煙器や刷毛など周辺機材がいろいろあるようだが、一群を趣味で飼う程度なら、巣箱と巣枠以外に、必要なものはない。巣箱は友人に使っていない箱をもらい、巣枠は自分で作った。つなぎの作業服と白いタオルくらいが必要な装備である。
服部家の食物連鎖
土は力を持っている世界は人が思うより単純だ
焼却場でゴミを燃やすのに化石燃料をつかっている。生ゴミに水分が入っているからである。分別して、庭の隅に積んでおけば、生ゴミは肥料に変わる。自分の家一軒がそんなことしても都会の生ゴミは毎日重油で燃えている。堆肥を作りは、ほんのちょっとでもいいから人間の悪事に加担しないでいたいという小さな自己満足である。
それが最初の一歩で、次にニワトリを暮らしに取り込んでみた。生ゴミは堆肥ではなく、卵と鶏糞になった。より積極的で自然な生ゴミのリサイクル。狩ってきたケモノの雑肉を食べさせると卵がよりおいしくなった。これがオーガニック生ゴミということを考えるきっかけだった。
ヒッピーの友人から庭があるのにウンコをトイレに流すなんてもったいないと言われて、庭で排便するようになった。私のウンコに涌いたウジをニワトリが食べた。虫を介したウンコの積極的なリサイクル(飼料化)。これでオーガニックウンコということを考えた。だが、ウンコの飼料化は家族のブーイングで現在は休止中。庭のウンコ穴にふたをしてニワトリが侵入できないようにしている。
ニワトリが歩き回るところに作物を植えると育ちがいい(食べられないように保護は必要)。卵を狙ってアオダイショウがくる。成鶏を狙うハクビシンもいる。循環など考えているわけではないが、土があればあとはなんとなく大地に任せておけばいろいろと繋がっていくようだ。
肉類の残骸は叩けばすべてニワトリの腹の中に消えていく。ニワトリも野生肉が好きだ。もしかして人間以上にグルメなのかもしれない。ニワトリとの生活は打撃系の刃物が活躍する場面が多い。
解体、調理中に庭の樹でミンミンゼミが鳴きはじめたので捕獲。羽をちぎってから投げるとニワトリがそそくさと持って行く。これからコオロギ、バッタの季節になり、卵もしっかりしはじめる。
Recipe.01
鍋のない野外でもできる
ザリガニの網焼き
どのような食べ方が一番ザリガニの旨味を引き出すのか調べるべく、三つの異なった方法で調理してみた。網焼きはややぱさぱさした感じ。
Recipe.02
本場アメリカの定番
ボイルザリガニ
ややしっかりと塩味をつけた沸騰したお湯に入れる。アメリカではほとんどこうして食べるようだ。確かにうまい。クルマエビには負けるけど。
Recipe.03
中国3000年と鶴見川の外来種
ザリガニの中華炒め
キンキンに熱した中華鍋で手早く炒める。旨味を閉じ込める料理法の一つだが、ザリガニには今ひとつだった。尾の肉部分だけにしていたら、違う結果だったかもしれない。