スーチカー(豚肉の塩漬け)
今月から始まる新連載は保存食の作り方。私、鈴木アキラが、日本に古くから伝わる保存食、世界各地にある保存食の作り方、歴史、背景を紹介していきます。第1回となる今回は、亜熱帯の地、沖縄に伝わる保存食中の保存食「スーチカー」を紹介しましょう
亜熱帯地域での肉の常温保存
スーチカーをはじめて食べた時の新鮮な驚きは今でも忘れない。シンプルな塩味なのだが、バラ肉の脂肪分のおかげで、ハムよりも味は複雑かつ濃厚。そしてこれが昔は、高温多湿な亜熱帯地方に属する沖縄で、塩蔵によって常温保存されていたと聞いた時には、さらにたまげた。塩の力、まさに恐るべしである。
沖縄では「豚は鳴き声以外、全部食べる」と言われている。チラガーは顔の皮、テビチは豚足。鼻先から内蔵、つま先まで、残すところなく食べる。琉球王朝時代の昔から、沖縄では「肉」といえば牛肉でも鶏肉でもなく「豚肉」であり、お正月に家で飼っている豚を1頭つぶして、それを1年かけて大事に大事に食べていたのだという。「全部食べる」はその当然の結果であったのだ。
さて、スーチカーであるが、単純にそのまま食べてもいいが、柑橘系のシークヮーサーなどをひと振りすると味が劇的に変化するので、さまざまな薬味で食べてみることをオススメしたい。また塩の強めのものを調理に使えば、味付けにあらためて塩を使う必要はない。つまり「塩味の豚肉」ではなく「豚の味の付いた塩」として使うワケだ。現在、塩分の強い食べ物は「血圧によくない」と敵視されているが、保存のためには塩分は必要不可欠だし、必要であれば塩抜きし、または少量食べればいいだけの話なのである。
精製塩ではなく、ミネラル分の豊富な海水塩もしくは岩塩を使用すること。仕上がりが全く違う。精製塩しかないならば、スーチカーは作らない方がいい。
手ですり込むのと、すり込まないのとでは塩の入り方が全然違う。沖縄ではこうした料理にかける手間を「てぃーあんだ(手の油)」と呼び、とても大切にする。
沸騰したお湯から煮るのがポイント。水から煮ると旨味である脂分が抜け過ぎてしまう。ラフテーや角煮とは異なり割と硬めに仕上がるが、スライスもしやすい。
写真・文 鈴木アキラ
1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。
【材料】豚バラ肉(できれば皮付き)、塩
【作り方】
❶豚バラ肉に塩をすり込む。塩の粒がなくなるまで丁寧に。
❷肉を塩で包み込むようにして、ファスナー付きポリ袋などの保存容器の中に入れ、冷蔵庫または冷暗所で保存する。
❸最初は肉汁が出てくるので2、3日ごとに塩を取り替える。
❹保存目的なら最低1~2週間は漬け込む。ここまでが保存状態。
❺食べる際は塩を拭き取ってから、塩抜きを兼ねて茹でる。2週間以上漬け込んだ肉は茹でる前に約半日から1日水に漬けて塩抜きをすること。塩抜きの加減は薄くスライスして焼き、実際に食べてみるのが一番分かりやすい。皮付き肉の場合は毛が残っている場合があるので、一度沸騰したお湯で軽く茹でてからカミソリで毛を剃り落す。沸騰したお湯で約1時間煮て出来上がり。最初は強火で、再沸騰してからは弱火。
❻そのまま食べるならスライスする。表面を軽くあぶってもいい。こまかく切って、さまざまな料理にも使用可能。