【vol.32】酷道458号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

日本唯一の未舗装酷道。訪問時期にはご用心・・・
山形県寒河江〜十分一峠付近

大雪のニュースで必ずといっていいほど登場する山形県大蔵村の肘折。全国ニュースで肘折と言われても、わかる人のほうが少ないと思うが、酷道マニアには有名な地名だ。
 
大蔵村肘折から寒河江市に抜ける国道458号線には、今なお未舗装の区間がある。高度に文明が発達し、インフラ整備が行き届いた現代の日本において、道路の最高峰といえる国道に今なお未舗装区間が存在しているというのは、驚きを禁じ得ない。車が通行できる現役の道としては、日本唯一のダート国道だ。
 
この酷道を最初に通行したのは、もう15年以上も前のこと。当時はまだデジカメなど普及しておらず、何かとコストのかかるフィルムの時代。何気なく走った道路の写真など、1枚も撮っていなかった。
 
そこで、ダート酷道の写真を撮るべく、再訪の計画を立てた。しかし、この時点で既に11月。冬季閉鎖が目前に迫っていた。一刻も早くという焦りから、早速、現地に向かった。
 
山形市から北上するにつれて、景色が白くなってゆく。これはもう、嫌な予感しかしない。
 
国道112号線との重複区間を過ぎ、寒河江市宮内から肘折方面へと北上。車窓は白いが路面に雪はなく、2車線の快走路が続く。
 
集落を過ぎると、道幅が一気に狭くなり、そして、路面も白くなってきた。除雪された形跡があり、わだちを頼りにかろうじて進めるが、時おり雪の塊が車底部を擦る音が聞こえてくる。瞬間的に滑ったり、ABSが作動したりするが、大勢には影響がない程度だ。
 
ダート区間よりも随分手前で、恐れていたことが現実となった。除雪区間が終了し、これ以上走れなくなってしまったのだ。万事休すだが、岐阜から山形までやって来て、このまま引き下がる訳にはいかなかった。車から長靴とかんじきを取り出して装着する。そう、ここからは雪の上を歩いて探索しようと考えたのだ。峠まで10キロほどあるので、とりえず1時間歩いてみて進んだ距離から計算し、行けるかどうかを判断することにした。

冷静に考えれば、たとえ峠まで行けたとしても、雪だらけで舗装もダートも全く分からない。この時点で、ダート国道の写真を撮るという目的は果たすことが出来ない訳だが、これはもはや自然と自分との意地の張り合いになっていた。
 
雪の上に一歩を踏み出して、失敗に気づいてしまった。それは、あえて昔ながらの“かんじき”をチョイスしたことだ。見た目はいいが、踏み出したかんじきの上に雪が載ってきて、引き足が非常に重いのだ。

汗だくになりながら、必死に1時間歩いたが、結局1キロほどしか進んでいなかった。このペースで行くと、往復で20時間はかかってしまう。その事実だけを確認し、引き返した。完全な敗北だった。結論、自然には勝てない。皆さんも酷道へ行く際は、季節を十分に考慮してほしい。
 
ダート国道については、今後きちんと再訪し、改めて紹介したい。

かんじきを装着。雪が乗っかるため、引き足が重くなる。

路面は雪で覆われ、舗装だろうがダートだろうが全く見えない状態。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。徐々に仲間を増やしながら活動を続けている。
http://www.geocities.jp/teamkokudo/