鰺のりゅうきゅう
地名がついた保存食こんなのは探してもなかなかない。しかもそれが、その地でない場所の名物料理なのだとしたらなおのこと。今回は九州は大分を中心として伝わる魚の保存食料理「りゅうきゅう」を紹介しよう。
10分から1週間まで
大分を中心とした北九州地方の名物料理に「りゅうきゅう」というのがある。鯵やブリなどの魚を醤油ダレに漬け込んだ保存食だ。ショウガの風味が甘めの醤油ダレを引き締めていて滅法美味い。
「りゅうきゅう」は琉球、つまり今の沖縄のことに違いはないだろう。沖縄から伝わった料理なんじゃない?というのが多くの大分の人に聞いた話なのだが確証はないようであった。不思議なのは沖縄で「りゅうきゅう」という料理を知らない人が多いのに対して、北九州の人たちには広く知られているという点だ。
沖縄には大東寿司という漬けマグロや漬けサワラの握り寿司があって、これのルーツは八丈島の漁師料理らしいのだが、取った魚を醤油ダレで保存するというのは海で生活する人たちの共通した技術のようである。
沖縄の漁師はサバニと呼ばれる小型の木造船で遠くフィリピンあたりまで漁に出ていたそうだから、食料の保存に関しても卓越した知識と技術を持っていたことは想像にかたくない。
りゅうきゅうの良いところは漬ける時間にあまりこだわらないという点で、10分でもいいし1週間でもいい。さっと漬けたものは魚の香りがそのまま活きているし、1週間漬けたものは身がネットリしていてそのまま酒の肴として食べるだけでなく丼にしたり湯漬けや茶漬けにして食べると絶品だ。
鯵は堤防釣りの対象としても手頃な魚で、しかも釣れる時はたくさん釣れる。小型の鰺の保存食としてはマリネや南蛮漬けが知られているが、大きめな鰺が釣れた時には「りゅうきゅう」も是非オススメしたい。
寿司ネタよりも少し大きめにスライスする。その前に小骨を丁寧に取っておくことも大切。面倒がらずに作業をすること。手間をかけた分だけ美味しく仕上がる。
漬けダレは魚の身がしっかり隠れる程度まで入れること。漬けダレが少ないと上下を入れ替える作業が必要になるが、仕事が忙しいとこれを結構忘れがちになるからだ。
写真・文 鈴木アキラ
1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。
【材料】
鰺大3尾程度、醤油100cc、みりん200cc、日本酒100cc、ショウガ大1個、青ネギ&白ゴマ適宜
【作り方】
❶醤油、みりん、日本酒を混ぜ合わせ、軽く煮切って冷ましておく。醤油、みりん、日本酒の割合は1:2:1。足りない時にはこの割合で作って足す。
❷すり下ろしたショウガを漬けダレに混ぜる。
❸鯵はゼイゴを取ってから三枚おろしにする。
❹小骨を取ってから食べやすいサイズにスライスする。
❺タッパーやジップ付き食品保存袋などの密閉容器にスライスした鯵を入れ、ヒタヒタになるまで漬けダレを注ぐ。漬けダレが少なく身が浸りきらないような時には、忘れず時々上下を入れ替えること。
❻最短で10分程度、最長で1週間冷蔵庫で保管。
❼細かく切った青ネギと白ゴマをたっぷり振って食べる。
❽3日以上経つと熟成して身がネットリしてくる。僕はこの状態から先が好きで、ご飯に載せて丼にしたり、熱いお湯やお茶をかけて湯漬け、茶漬けにして楽しむことが多い。