ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。
今回の酷道
九州の秘境をゆく
百万円道路と呼ばれた酷道
熊本県上益城郡山都町〜宮崎県西臼杵郡諸塚村
国道327号は宮崎県日向市を起点とし、椎葉村を経由して熊本県山都町までを結んでいる。九州の東部からスタートし、九州を横断することなく中央付近で終わるため、少々中途半端な印象を受ける。椎葉村から熊本県山都町までの間は国道265号と重複するため、国道327号は日向市と椎葉村を結ぶ路線と認識されることが多い。
椎葉村といえば、1700メートル級の山々に囲まれた秘境で、平家の落人伝説でも知られている。終点の熊本県山都町を出発し、酷道区間が残る椎葉村を目指す。
265号との重複区間を経て327号の単独区間に入り、十根川を渡ったところで、いよいよ酷道が始まる。センターラインが消え、しばらく川沿いにクネクネと蛇行した国道が続く。
5分ほど走ったところで、いきなり2車線のピカピカの舗装路が現れた。振り向くと、立派なトンネルが口を開いていた。扁額には〝尾平トンネル〟と書かれている。私が訪問した時点では未供用だったが、現在は供用されており5分ほどの短い酷道区間は姿を消した。
ピカピカの舗装路を走っていると、その先にも最近できたばかりのトンネルと橋梁が連続している。近年まで酷道であった区間は、高規格道路に生まれ変わっていた。並行して酷道であったヒョロヒョロの旧道も残っているが、国道指定を外されているため、現在はもう酷道とはいえない。
さらに進むと、再び酷道区間が現れ、山の合間を縫うように走る。道幅が安定せず、左右に凸凹している。いい酷道だ。
集落を抜けたところで道路が高規格化し酷道区間は終わる。この区間も、いつ高規格化されてもおかしくない。いつも提唱していることだが、酷道と親はいつまであるか分からない。後悔しないためには、会いたいと思った時に会いに行くことだ。
この国道327号の一部区間は、別名〝百万円道路〟と呼ばれている。これは、住友財閥が国道と並行する耳川の上流に発電用ダムを建設した際、道路の建設費として百万円を寄付したためだ。水運によって行われていた材木の運搬がダムによって断たれ、道路はその代替手段となるためだ。当時の百万円は、現在の貨幣価値で約百億円に相当する。
戦前に完成した百万円道路は現存し、今も一部が道路として使われている。それが、酷道区間なのだ。巨費がつぎ込まれたダム建設という巨大事業。林業が花形だった時代に、水運から陸路へと切り替えられた。そんな時代の変遷に思いを馳せながら酷道を走るのが、至福のひと時だ。
現在は失われてしまった酷道区間。
り向くと真新しいトンネルがあった。現在は供用されている。
道幅が安定しないが、これが昔ながらの酷道だ。
集落部では民家の近くを走るため、生活感が感じられる。
鹿取茂雄
酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/