【Vol.75】最小の道具で快適なソロキャンプサイトを完成させる [一人旅 装備入門]

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景気や世代に翻弄されない自由をこの手に

バブル崩壊後、あるいはリーマンショック直後に就活期を迎えた現在35〜56歳の日本人は、権力が無茶な経済発展を推し進め、大失敗した後の生存環境で種がどこまで衰退するかを観察するための実験動物である。その苦しみ具合を分析すれば次世代に有効な手立てが見つかるため、基本的に彼らに手は差し伸べられず、今なお実験は続行中である……。残念ながらその大半が実験動物となる本誌製作陣および読者の心境としては、そんな中でも何とかやってきたし、次世代が生きやすくなるなら致し方なしと言ったところか。何より、こんな生存環境だからこそ成長至上主義の綻びに気づき、野遊びを覚えたのだ。金は生きるのに精一杯で趣味の道具は最小限しか買えない(ある意味、野営がブッシュクラフト寄りになるのも必然か……)、近々巨大地震も起きそうである。それでも我々には日本津々浦々どこでも生きていける知恵と技術がある。不況にも災害にも世代にも負けない、真の〝無敵の人〟を目指せ。

例えばカラビナひとつでも一人旅に最適な逸品がある

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軽快に旅へ出るには装備も軽量コンパクトでなくてはならない。迅速な寝床設営に貢献するカラビナを旅に持ち出すとすれば、編集部はブラックダイヤモンドの「ミニワイヤー」を選ぶ。有事の際は身体の安全確保にも使えるクライミングスペックにして重量は1つ24gの超軽量仕様。小ぶりなサイズながらタープサイトのメインロープ設置時など、我らが定番のエスビナーでは不安な場面でも問題なく使えるのだ。

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上/この軽量コンパクトさでメジャーアクシス荷重(正常な方向からの荷重)は20kN(約2t)。アルパインクライミングシーンを牽引するブラックダイヤモンドならではのULアイテムと言えるだろう。下/ロープレスキューなどに使うプロ仕様のカラビナ(写真右)と比べると、ミニワイヤー(写真左)の小ささが際立つ。クライミング用の軽量なワイヤーゲートモデル(写真中央)よりさらに小さい。


道具の特徴を仕分けして自身の旅に最適な装備を選び取る
単独野営装備考

野営を伴う一人旅と言っても様々。山行、釣行をはじめ、カヤックやバイクツーリングもある。もちろん、美しいキャンプ場へ出向いて野営に興じるのだって立派な旅と言えるだろう。だから旅の装備として野営道具を捉えるなら、個々の環境や状況に合わせて適切なものを選び取る必要がある。ここからの10ページは、多様な装備の選択肢を簡潔にまとめ、誰でも最高の寝床を構築できる手引きである。

Chapter.O1

すべては目的地の条件と自身の嗜好に合わせて 火力の種類を決めることからはじまる!?

旅装備の選定で最も決めやすいのは火力だ。野外での火器使用に消極的な日本では、直火は当然、焚火台の使用さえ憚られる場面もあるので、そんな旅には人目につかないバーナー一択となる。まあしかし、本誌読者ともなればそういう場所を避けて旅に出ることも多いだろう。となると続く判断基準は旅先での燃料調達が容易かどうかになる。山〜釣行なら木枝もそこら中にあるはずだが、整備されたキャンプ場を巡る場合は一苦労。焚火の享楽を取るか、野営の快適性を取るかは個人判断になるものの、この選択により求められる寝床も大きく変わってくるので留意されたし(次項参照)。

<Choice.A> 燃料の現地調達が狙える山間部を行くなら“焚火台派”

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<tent-Mark DESIGNS>男前ファイアグリル

500g以下と軽量でありながら、厚手のフレームとシンプルな形状で強度も兼ね備えたオールチタン製の焚火台。V型形状により燃焼の促進や安定性を実現している。焚火の熱を保ち、熾が作りやすいので調理時に役立つ。9900円(税込) 問ワイルドワン事業部028-688-7597

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収納時は310×165×15mmというコンパクトな箱型になる。ゴトクや収納ケースまでを含んだ総重量は493gで十分に軽い。

焚火台の選び方

旅のお供となる焚火台は剛性を重視して選ぶべし!

一人旅ゆえ大型の焚火台は除外しても、軽量化を求めすぎて少量しか薪が載らない、あるいはラフに扱うと歪んでしまうようなモデルでは心許ない。旅の間中、様々な場所で調理することを鑑みれば、多少の軽量性は犠牲にしても不具合が起きないこと=焚火台においてはねじれや歪みに強いアイテムを選ぶべきなのだ。

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焚火台のバーナーに勝る利点は暖房性能も高いこと。ソロ用焚火台でも大量の薪を載せられればそれなりに暖かいのだ。薪を積み上げるほどに火熾し初期の着火性が高まる効果もある。

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ねじれや歪みに強い高剛性な焚火台は、薪を載せたまま火床を少し移動したい時にも安心。旅を台無しにする思わぬ怪我の軽減にも繋がるので、意外に無視できない要素である。

<Choice.B>野外でも手早く調理を楽しみたいなら“バーナー派”

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<SOTO>G-ストーブ

収納時の厚さ25mmとコンパクトでパッキングしやすいCB缶用シングルストーブ。バーナーヘッドが機能的に収まるブック型で、外側2枚の板が使用時に風防の役割も果たす。重量380g(ガスボンベを除く)。8415円(税込)
問新富士バーナー☎0533-75-5000

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機関部がブック型に収納され、142×78×25mmの小さな箱形状で携行できる。これは雨蓋やサイドポケットにも余裕で入るサイズ感だ。

焚火台の選び方

あらゆる地面に対応できる ワイド&ローボディが決め手

重量が軽いワンバーナーは携行に便利だが、それが調理時の不安定さにも繋がる。どこでもすぐに火力が得られる反面、設置する地面環境の点では焚火台よりシビアなのだ。だから旅装備としてワンバーナーを迎えるなら、火床を低く構えられるCB缶タイプがお勧め。いざとなれば燃料をコンビニで入手できるのもメリットだ(※)。
※火力の強さや機関パーツの寿命を考え、バーナーとガス燃料は基本的に同メーカーで揃えること。

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今回編集部が推薦するGストーブは、ブック型のゴトクがウインドシールドの役目を果たしているので耐候性も高い。先鋭的な山行に挑むのでなければここでULにこだわる必要はない。

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3本爪や4本爪といったワンバーナー選びで話題になるゴトク形状。CB缶横置きのバーナーならゴトクサイズの制約が少ないので、よりクッカーと接地する形状にできるのだ。

<POINT>パッキングの容易さを考えれば火力はどちらも箱型が正解!?

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焚火目的、調理目的の野営ならいざ知らず、移動距離が長い一人旅で意外と盲点になるのが火器の収納形状だ。焚火台もバーナーも収まりの悪い球体形状や折れ曲がらないよう気を使う極薄形状では毎度のパッキングが面倒。コンパクト性と頑丈さを兼ねた箱型こそ旅装備向きなのだ。

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ここで選出したアイテムはどちらも気負わずバックパックに放り込める箱形状。“野営地に着いたらとりあえず一服”を可能にする手軽さだ。