Fielder vol.32 野生素材図鑑ー目次ー

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人類だけの繁栄じゃない、暮らしの素はすぐそこで生きている

写真/幡野広志

 

野生素材を使いこなし、いつかは死んで、自分も真っ当な世界の構成物になりたい

 人間が自然に働きかけて、生活手段や生産手段などを作り出す活動。そう労働が定義されている通り、食料は言わずもがな、住宅も高層ビルも、道路や車だって、全てはこの世の自然界にあるものから作られている。確かに文明の利器でリサイクルされ続けるものもあるが、基本的には何かの形に変わって、また自然へ還っていくのが摂理だ。世界は巡っている。色即是空、空即是色。仏教の無常観がそれを言い当てている。

 だから今、身の回りに生きているものも、すべてがこの世の構造物だと捉えられる。かつては人体を構成していた1原子が、何かしらの肉食動物へ移り、巡り巡って現在、戦闘機を構成する1原子になっていたとしても不思議ではない(マグネシウムとか)。人類が力を持って以来、この巡りは少なからずとっ散らかっているが、いまだ世界は人間の繁栄のためなら無茶苦茶にしてもいいオモチャではなく、すべての生き物が繋いでいる素材そのものであることがわかる。

 ただまあ、原子レベルで世界を捉え、それを実生活に活かすのは難しい。だから今日のところは身近に生きているもの、落ちているものを活用して、生きる喜びに使いたい。例えば自然界にある特徴的な形や性質を踏まえて、食料採集の道具に野生素材を導入してみる。週末はそれで獲れた生き物を食べて過ごし、たまに野糞、最終的には死んで、また自然に還してやる。本当はガンジス川あたりに流されるのが一番だが、そうやって生きて、燃えて、灰になる人生はなんて素晴らしきことかな。

※この記事は2017年2月発売『Fielder vol.32』に掲載されたものです。