【vol.74】第42回 伝統保存食入門

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5倍麹味噌

味噌は日本を代表する保存食、そう言っても過言ではないだろう。しかし手作りしようとすると、とても長い時間がかかってしまう。そこで考え出されたのが短時間での発酵熟成を可能にした5倍麹味噌である。

味噌は自分ちのが一番うまい

味噌は梅干しと並んで日本の保存食の典型ともいえ、調味料としての使い方のほか、日本の食生活になくてはならないものの一つとなっている。味噌は基本的には豆と麹と塩で作る非常にシンプルなものなのだが、地域や作り手によって全くと言っていいほど味が異なる。そして作る人の全員が「自分ちの味噌が一番うまい!」と思っているから「手前味噌」という言葉があるほどだ。しかし、自分で作るとなると手順は難しくなくても、とにかく時間がかかり、それが味噌作りに手を出しにくい要因となっているようだ。

そこでオススメしたいのが、麹をたくさん使って発酵を早める方法の「5倍麹味噌」だ。通常の味噌は半年から1年かかるところがたったの2週間程度で食べられるようになる。通常、味噌は豆と麹を1対1で作るのだが、5倍麹味噌は文字通り1対5の割合で作っていて、その分熟成発酵が早いというワケだ。もちろん2週間ではこなれていると言うには全然早いが、これはこれで面白いし、3カ月から半年経って旨味が馴染んでいくまで味見をしながら過程をチェックするのも楽しい。

麹がたくさん入っているし、塩も少なめだから味は甘めだ。溶いて味噌汁などに使うというよりは、キュウリなどに塗って食べるような使い方に向いている。

【材料】
大豆(ドライパック)240g(乾燥大豆なら約100g)、米麹500g、塩90g、保存用容器の消毒のためのアルコール(35度以上の焼酎など)少々

【作り方】
❶乾燥大豆を使用する場合は前日から水に浸して戻しておく。
❷大豆を鍋に入れ、豆が完全に浸るくらいの水を入れて強火で煮る。
❸煮立ったら弱火にして豆が柔らかくなるまで7~10分程度煮る。
❹ザルにあけて煮汁を切る。煮汁は全部捨てずに200cc程度とっておく。
❺ボウルに麹と塩を80g入れて(10gはとっておく)、全体がしっとりねっとりして、やや黄色味がかってくるまで手で揉み込む。15~20分くらいかかる。この塩を加えてなじませた麹を「塩切り麹」と呼ぶ。
❻大豆の粗熱が取れたら丈夫な厚手の密閉ポリ袋に入れ、取り置いた煮汁のうちの120ccを加え、全体がペースト状態になるまで指で押しつぶす。
❼ボウルで潰した豆と塩切り麹を混ぜ合わせる。硬かったら煮汁を足しながら混ぜ合わせ、ハンバーグのタネになるくらいの硬さにする。
❽空気を抜きながらしっかり握って5~6cm程度のボール状にする。これが「味噌玉」。
❾アルコールで除菌をした器に味噌玉を詰めていく。空気が入らないように手でしっかりと潰していくこと。残った塩を表面全体に振りかけてから蓋をする。日陰の室温の場所に2週間程度おく。2週間経ったら表面の塩を全体に混ぜ合わせる。好みの熟成具合になったら冷蔵庫に移して保管する。

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大豆はドライパックのものを使えば楽。乾燥した豆を煮戻して計量する手間がない。使う麹によって味にずいぶん変化が出る。酒造りと同じで、麹を様々試して自分好みの味に仕上げていくのが何よりも楽しい。

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塩切り麹を作る作業。じっくり時間をかけて揉み込んでいくと、手触りが粘っこく変化していくと同時に、麹の甘く発酵した香りが次第次第に立ち上ってくる。

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煮上がった豆を潰す。ミキサーにかけてもいいが手で潰してペースト状にした方が舌触りが滑らかになる気がするのと、ミキサーだと仕上がりが均一になりすぎてつまらない。

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写真・文 鈴木アキラ

1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。