読図とは地形図から現在地を割り出す、今後のルートを設定する、これから歩む道を先読みするといった技術で、これだけで1冊の本ができてしまうほど奥深い。ここでは、実践で役立つ技術を簡潔にまとめ、最初の一歩を踏み出すための技術を解説していきたい。まずは身近なエリアで実践し、生の体験を通して習得していこう。
01.地図を知る
山行に用いる地図は2万5000分ノ1地形図
地図と言っても様々な種類があるが、山行における読図に用いるなら国土地理院がまとめている「2万5000分ノ1地形図」を選ぶのが基本。よくぞここまで調べてくれたものだと感心するぐらいに、等高線によって小尾根などのディテールが再現されている。地形図と現在地の照合が不可欠な藪山行においては、このリアリティが重要となるのだ。ちなみにこの図に引かれている等高線は標高10m刻みで、50mごとに少し太い計曲線が引かれている。現在では日本地図センターや大手書店以外にも、インターネット上から地図を入手可能だ。
2万5000分ノ1地形図(紙地図バージョン)は四方の余白部を折り込み、新たに地図の中心が谷となるよう横方向に4つ折り(蛇腹折り)、縦方向に2つ折りして持ち運ぶと良い。
国土地理院ホームページにて
国土地理院の公式ホームページにある「電子国土web」からも2万5000分ノ1地形図は無料で入手可能だ。こちらは自分に必要なエリアを自由に切り出せるだけでなく、PC上で磁北線やマーカーなどを付けることができる。
日本地図センター or 取扱書店にて
登山者に長年愛されている柾判(縦46cm×横58cm)の紙地図は日本地図センターおよび取扱書店にて入手できる。日本全国が細かくエリア分けされているので、ルートが地図を跨ぐ場合は隣り合う2枚の地図を貼り合わせたい。
地図を入手したら磁北線を書き込む
地図は真北を上にして作られているが、コンパスの赤針は地球が球体である関係で真北から6 ~ 8度(本州)ほど西に傾いた方向を指す。つまり、コンパスの赤針が指す北を地図上の真北と同視してしまった場合、真北に歩いているつもりが実際は北微西に歩いてしまうことになるのだ。そこでこのズレを解消するために地図に書き込むのが磁北線である。入手した地図が本州エリアであれば、西に7度傾いた線を書き込んでおけば良いだろう。先に紹介した2万5000分ノ1地形図には、磁北西偏角度としてエリアごとに正確な磁北線の角度が記されている。
電子国土webなら正確な磁北線を引いてくれる
通常磁北線は自分が歩こうとしているエリア一帯に赤ボールペンなどで引くものだが、電子国土webのツールを使えば正確な磁北線をPC上で引いてくれる。この状態でプリントアウトすれば作業は終了だ。
地図とコンパスを地面と平行に置き、磁北線と赤針が平行になった位置が地図の正しい方向となる。
POINT | 磁北線を引くなら4cm間隔が便利
2万5000分ノ1地形図上の1kmは4cmで表される。つまり磁北線を4cm間隔で引いておけば、距離の目安としても使いやすいのだ。電子国土webの磁北線は間隔が広いので、距離感を意識するのなら自力で引いたほうが良い。
02.コンパスを使う
道なき道でこそ活躍する進路維持の定番道具
地形図に記載された等圧線や記号を正確に把握することができれば、自分の現在地と進むべき進路を決定することができる。とはいえ、道もなく草木が生い茂る藪山の真ん中でそれらを正確に照合できるかと言えば困難だろう。そこでコンパスの登場である。例えば周囲の視界がゼロに等しい笹藪であっても、目標地までの正確な方角があらかじめ分かっていれば切り抜けられる可能性が高い。進行線が付いたプレートコンパスを使えば、より正確な進路維持ができるようになる。
進路方向を確認する際に地形図上で現在地と目標地を結ぶ辺。
進行線
進路方向を確認する際にその方向を指す矢印。
磁針
通常の方角確認ほか、進路方向を確認する際に最終的な方角を導き出す針。
リング
進路方向を確認する際にノースマークを操作するための回転盤。
ノースマーク
進路方向を確認する際に磁北線を記憶させる矢印。
コンパスと地形図を使って進路方向を確認する
プレートコンパスの最も有効な使い方としては、地形図上の現在地と目的地を結ぶ線から実際の現在地→目的地の進路方向を導き出すテクニックがある。重要となるのは地形図上の現在地と今自分が立っている地点が同じであることで、これを読み間違えると全く意味をなさなくなってしまう。確実な方法としては、現在地が明確な山行の出発地点から随時このテクニックで進路を確認し、繰り返し現在地と目的地を結んでいくことである(もちろん、地形図と周辺状況から正確に現在地を割り出せるなら、必要な場面にだけこのテクニックを活用すればいい)。
STEP.1
例えば現在地が赤丸の地点、目的地が青丸とした場合。まずは、コンパスの側辺でこの2点を結ぶ。続いて、コンパスを固定したままリングを回して、地形図の磁北線とコンパスのノースマークを並行に合わせる。これでコンパスは目的地の方向を記憶したことになる。
STEP.2
コンパスを地面と平行にして、進行線が身体の正面を指すように持ち、ノースマークと赤針が重なるまで体を回転させる。重なった時に進行線が指している方向が、目的地までの進路方向となる。
ノースマークと赤針を重ねる際、地図の磁北線とノースマークを平行にしておけば、地図もカーナビでいうヘッドアップ状態になる。これを整置という。
※コンパスに進路方向を記録する際は磁北線の南北方向を間違えないよう注意する。
03.ルートを選定する
藪山の基本ルートは尾根筋に設定する
道のない藪山を歩く場合、地形的な歩きやすさや現在地の把握しやすさを考えると、ルートは積極的に尾根筋を選択するのが正解。基本的に尾根は傾斜が緩く、危険なトラバースを強いられることが少ない、左右が開けているので沢向かいの目標物が見つけやすいといった利点がある。また、その地形自体が道筋のように続いていくため、方向感覚を完全に失う危険性も少ないのだ。もちろん例外はあるので、地形図を確認しながら臨機応変に対応していくのが鉄則だ。
左右を傾斜で覆われた沢は藪が濃いが、尾根は比較的緑が薄いので歩きやすく、目で道筋を把握しやすい。
まず1枚目の地形図を見てもわかる通り、尾根(赤線)はピークから下方へ道のように長く続いている。このように尾根筋を地形図に書き込んでおくと、ルートが見えやすくなる。2枚目の地形図は、尾根の傾斜と沢の傾斜の差が特徴的に表れた地形だ。土砂崩れなども沢に起こりやすいので注意が必要である。
地図記号を積極的に目標として活用する
国土地理院の2万5000分ノ1地形図にはディテールの豊かな等高線のほか、細かく地図記号が記されている。ルートを選定する上であらかじめ崖や岩を避けて通ることができるのは言わずもがな、次ページで解説する先読みや現在地の照合にも積極的に使える目標となる。人工的な建物がなくても、三角点のあるピークになどは目視確認できる場合があるので、積極的に活用していくべきだろう。
例えばこの地形図では砂防堰堤(赤丸)が重要な目安となる。この筋を行けば○○が見えるはずといった予想を元にルートを設定すると遭難の可能性も少なくなる。
薮山行で役立つ地図記号
POINT | 地形図を読み解けばルートは自ずと見えてくる
例えばこのような地形でA地点のピークをB地点から目指す場合のルート設定を解説しよう。地形図の通り、A地点へ続く尾根の途中には崖があるため(青線)、沢筋に沿った仕事道を活用し、沢と尾根の等高線が一番緩やかな地点(赤丸)から再びA地点へ続く尾根へ登る。
沢筋の仕事道に入る前に、A地点へ続く尾根を確認して現在地を照合している場面。この地点では歩きやすそうな尾根だが、この先に崖がある。
04.現在地を照合する
周辺の風景や道のりを地形図と照らし合わせる
コンパスの頁で「地形図に記載された等圧線や記号を正確に把握することができれば、自分の現在地と進むべき進路を決定することができる」と書いたが、コンパスによるナビゲーションと地形図と現在地の照合を組み合わせれば、高い確率で藪山を踏破できるはずだ。ここでは多くの地形で有効な照合方法を例に挙げて解説していこう。
これは小ネタだが、複数人で読図を楽しむ場合は現在地の共有やルート解説の際、落ちている小さな枝を使うと良い。地形図のディテールに対して太すぎる人差指などを使うと、それぞれのメンバーによって差した地点に認識のズレが生じることもある。
A地点
B地点
視界の変化による現在地把握
例えば尾根に取りつきたい場合。上図のA地点を登っているときは当然尾根の反対側は見ることができないので“登坂中”と認識できる。一方B地点まで到達した場合は、A地点では見えなかった沢や沢向かいの尾根、人里などを望むことができる。
目視だけに頼らず等高線の形を確認
○地点から■Aのピークを望んだ時、ピークが2つ並んだように見えるのは■Bの尾根が張り出ているからである。目視だけに捉われて「こんな山、地形図には載っていない」と慌てないようにしたい。
等高線は10m未満の高低差を表さない
2万5000分ノ1地形図の等高線は標高差10m刻みとは説明済みだ。ということは、同じ等高線内に9mの落差があっても地図上には表れないのである。地形図の赤丸地点のように沢に挟まれた岬状の尾根には、思わぬ難関が待ち受けている場合がある。
POINT | 遭難を回避するための先読みのテクニック
地形図にある程度慣れてくれば、そこから実際の地形や見える風景、距離などを想像することができるようになる。道なき道を行く際は、自分が選んだルートの先に何があるかをあらかじめ予想し、確認しながら歩んでいくと良いだろう。先読みをしていれば、仮にルートを外れた場合でも素早い対応が可能になる。
A地点からB地点を目指す際、これから自分が歩むルート上には、(1)出発地点では右手に沢が見える、(2)痩せた尾根の上を通る、(3)傾斜は緩やかだかウネリのある山肌を登る、(4)右手すぐに崖が見える、(5)平坦な場所から標高差50mの登りがあると先読みできる。