ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。
今回の酷道
カーナビを完全否定
道だけではない酷道の魅力
島根県飯石郡飯南町〜島根県出雲市
島根県出雲市を起点に広島県尾道市に至る国道184号。総延長136キロのうち、酷道区間は島根県飯石郡飯南町内の8キロほどの区間に限られる。
酷道の良し悪しを判断するには、道の酷さだけではなく、酷道区間の距離や人家の有無、携帯電話の電波状況など、様々な要素がある。酷道157号にかつて存在した〝危険落ちたら死ぬ!〟のような名物看板の存在も、酷道を彩る大きな要素だ。
この184号は酷道区間の距離が短く、道路の状態だけを見れば、はっきり言って物足りない。それなのにあえて取り上げたのは、ある案内標識の存在があったからだ。
広島県側から走っていくと、複数の国道との重複区間が長く続く。酷道が期待される県境区間も国道54号と重複しており、赤名峠を立派なトンネルで難なく越えてゆく。飯南町でようやく国道54号と別れ、久々に184号の単独区間に入った。
単独区間に入っても、しばらくは2車線の快走路が続く。国道が飯石ふれあい農道と交差するのだが、農道側が優先になっており、国道側が一時停止となっている。この時点で、異変が始まっている。農道を横切ると、そこに目を疑う案内標識が立っていた。
“この先道路が狭くすれ違い出来ません。カーナビの案内にかかわらず、右折してください”
案内標識には、直進方向のNAVIの上に×印、そして右折方向の飯石ふれあい農道に〇印が描かれている。農道の先、県道326・325号を走って国道を迂回せよとの内容だ。国道が農道以下であると、公然と表されている。国道の尊厳を踏みにじるかのような案内標識だが「国道は酷ければ酷いほど良い」と思っている酷道マニアにとっては、たまらないご褒美だ。私はもちろん迷うことなく直進する。
しばらくは可もなく不可もなくといった1.5車線の山道が続く。酷道が本気を出してくるのは、丸山トンネルを越えてからだった。ついに対向車とすれ違うことができない幅員となった。ウキウキしたが、その距離は短い。やや消化不良気味のまま、酷道区間は終了する。
それでもこの酷道が輝くのは、案内標識の魅力が大きいからだ。ちなみにカーナビに従わないように呼びかける案内標識や看板は、京都府道45号や、岐阜県道268号など全国にいくつか存在する。勝手に“カーナビ否定看板”と呼んでいるが、これを探し歩いてみるのも楽しいだろう。旅の醍醐味が一つ増えることは間違いない。
センターラインは無いが、普通車同士であればすれ違うことができる道幅だ。
本格的な酷道区間は、軽自動車でこの道幅! 草が茂っている夏場に訪問したのも功を奏した。
迂回ルートに指定されていた県道325号と合流し、酷道区間は終了する。
岐阜県にあるカーナビ否定看板。
鹿取茂雄
酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/