野営道具自作術
山の中で数日間過ごすための自給自足技法に欠かせないのが道具の自作。ここではどこでも手に入れやすい素材、あるいは普段ザックに入っている装備品を用いて、新たな道具を生み出す術を学びたい。それが有効な道具となるかは個人の発想次第だが、作り方さえ覚えておけば、きっと有事の際に役立つことだろう
01 パラコードハンモック
米軍が用いるパラシュートのサスペンションライン、通称パラコードを用いてネットを作る。パラコードと言えば野営装備の定番であり、そのまま使えば細引きとして、内部のコアラインを使えば釣り糸などとして使うことができる。そして今回のように、その両方を駆使すればより複雑な道具を作り出せるのである。サバイバルフィールドにおいて、ネットと言えば鳥や魚の捕獲に使われる場合が多い、大変に有効な道具だ。とはいえ現在の日本においては法律上おいそれとできないため、今回はハンモックという形でそれを有効活用している。見た目的には……バドミントンやバレーボールのネットそのものなので、なんならファミリーキャンプ中のイベントとして作ってみても面白いだろう。
パラコードハンモックの実力
パラコードハンモックは平均的な成人男性が座る、寝るに耐えるくらいの強度がある。ネット部のコアラインは細くて軽いため、少々衣服などに引っかかりやすい特性があるが、寝心地は思いのほか快適だ。
焚火の上に張れば燻製用ネットとしても使えるので、獲物用に使用できなくても有用性はそれなりにある。
使用素材
パラコード
[φ4mm/30m/550lb]
一般的な550パラコードはその数値(ポンド)の通り、静的耐荷重は250kgとなる。実際の耐荷重はメーカーにより差が激しいので、できるだけ米国製の本場モノを使用したい。内部には7本のコアラインが入っている。
制作手順
自身の身長を余裕でカバーする2m間隔で生える立木を探し、クローブヒッチなどでパラコードを張る。今回は強度が必要なので、コアラインは抜かずにそのまま使用している。
作りたいネット幅の2倍の長さとなるようパラコードを数本切り出し、内部のコアライン7本をそれぞれ抜き出す。必要なコアラインの本数はネットの長さや網目の細かさにより異なる。
コアラインを半分に折り、立木に張ったパラコードへプルージック(カウヒッチでも可)で等間隔に結びつける。今回は制作時間と実用性を天秤にかけ、約5cm間隔で結びつけた。
続いて隣り合うコアライン同士をオーバーハンドノットで結んでいくが、この際結び目の高さを揃えるために平行なガイドラインを貼っておくと良い。こちらも間隔は約5cm。
2段目は1段目で作った結び目間隔の、ちょうど真ん中の位置で隣り合うコアライン同士を結ぶ。この際ガイドラインの高さも1段目と同様の間隔で下げておくと良い。以降、この要領でコアライン末端まで網目を作っていく。
網目をコアライン末端の少し手前まで作ったら、垂れ下がるコアラインにオーバーハンドノットで結び輪を作る。続いて輪を折り返すようにしてカウヒッチを作り、そこへパラコード(コアラインを抜いていないもの)を通していけば完成だ。ちなみに強度不要なネットを作る場合は、上下に張ったパラコード内部のコアラインを使ってネットを作っても良い。
02 五寸釘ナイフ
手元に有効なギアがない環境でのサバイバルにおいて、自作できると心強いのがナイフ。廃材などからも見つけられる五寸釘があれば、焚火で簡単にナイフを作ることができるので紹介したい。とはいえ伝えておきたいのは、これはあくまで“応急用”でしかないということ。一般的な釘は軟鋼製であり、炭素の含有率が低いことから焼き入れの効果が薄く、刃がすぐに落ちてしまうからだ。もちろん、高温を維持しにくい“焚火で作る”という設備的な制約もある。まあしかし、刃が落ちてもすぐに復帰できる秘技は本誌P30の「野外シャープニング論」で紹介している。これと合わせれば、五寸釘ナイフの活躍の場は増えるかもしれない。習得しておいて損ではない。
五寸釘ナイフの実力
刃を付けた直後は樹皮も削れるほどの切れ味。とはいえ、すぐに刃が落ちるので、一般的には“ペーパーナイフ”として扱われる場合が多い。今回は鍛造の過程で刃に大きくアールが付いたが、叩き方によって直線的にも作れる。
使用素材
五寸釘
[丸釘/鉄/15cm]
どこでも売っている五寸釘は軟鋼製。冷間時でもハンマーで叩けば凹みができるほど加工性が良いので、多くの熟練アウトドアマンが試みている七輪&ドライヤーがなくても形成できる(熱が足りないため焼き入れの精度は落ちる)。
制作手順
C字のように空気を吹き込む入り口を設けた囲いを石で作り、中に木炭を入れて炉は完成。五寸釘の鍛造には、釘を叩くためのハンマーと火ばさみとしてウォーターポンププライヤーを用意した。ちなみに、ウォーターポンププライヤーにはロブスター製のネジアンギラスを用いたが、こちらは口がネジの頭を掴むようにできているので今回の作業に最適だ。
木炭に火を付けたら、まずは炉内の温度を上げるために必死で酸素を送り込む。家庭で行う場合はドライヤーの冷風で空気を送り続けるのがスタンダードな方法だ。今回は釘を炉に入れている間中仰いで高温を維持する。
※必ず手袋を着用。火傷に注意
木炭全体に火が回ったら釘を差し込む。炉の温度は場所によって異なり、黄色>オレンジ>赤の順で温度が高い。黄色の炎が上がっている部分に釘を入れるようにしたい。
※ハンマーで叩く際は特に釘のかけらに注意
自力による送風では釘を完全に赤熱させることはできないが、軟鋼なのでほんのり赤い程度でも十分に加工できる柔らかさとなる。できるだけ平らな石(本来は真っ平らな金床が良い)の上に置いて、ハンマーで叩きながらナイフ型に形成する。
刃となる側を重点的に叩くと、そこの鋼が伸びてアールが付いてくる。釘が冷めてきたら炉内に戻し温め……を繰り返してナイフ状となるまで同作業を続ける。
ある程度釘が薄くなりナイフ状となってきたら、石をヤスリに見立ててより緻密に、滑らかなフォルムへ形成していく。熱でなまされた軟鋼なので苦もなく形を整えられる。
釘を理想のカタチに形成できたら、釘が柔らかい焼き入れ前にブレード部を荒仕上げしておく。ある程度刃を薄く仕上げておくと本番の刃付け作業が楽になる。
荒仕上げ後は釘全体が木炭に覆われるよう炉に入れて、ここから自力送風の限界に挑む。軟鋼でも1200℃で温めると強靭になるという研究結果があるが、七輪×ドライヤーなら1000℃。自作炉×自力送風ならさらにそれを下回る。とりあえず赤熱を目指し、その後水で急冷する(本来は過度な急冷により鋼が脆くなるのを防ぐためオイルが良い)。
焼き入れ後は平たい石で刃をつける(要領は本誌P30を参照)。今回はそもそも釘が軟鋼であることに加えて、自作炉×自力送風では焼き入れが不十分となり、刃はすぐについた。