【vol.69】にわとりのいる暮らし No.48

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四月の頭、チャボのシーシーが五羽のヒナを孵した。ニワトリを飼い始めて十年になるが、メンドリが抱卵から育雛まで行うのを見るのは初めてのことである。

シーシーは、毎日毎日、暗い巣箱の中で真剣な顔をして、卵を温め続けた。飲まず食わずで弱らないのだろうか。たまに巣箱から出てきて、土を掘り返しては何かをガツガツとついばみ、水をごくごく飲み、またさっさと巣箱に戻っていく。メンドリが卵に対して本能的に強い責任感を持っていることに驚かされた。一方、オンドリたちは何の役にも立てず、日々つまらなそうに二羽でつるんで時間をつぶしている。

抱卵スタートから二一日目、ヒナが孵る予定日になった。巣箱のシーシーには特に変化はない。ヒナのかすかな鳴き声をとらえようと耳をそばだてる。まさか、駄目だったのでは……。

それから三日後の朝、いつものようにそっと産卵室をのぞくと、シーシーの胸のベージュがかった白い羽毛のあたりに、ふわふわのヒヨコが立っていて、黒い小さな瞳でこちらを見ていた。喜びで叫び出しそうになりながら、子供たちを呼びに走る。常にお母さんの周りをウロウロし、羽毛にもぐったり、顔をひょっこり出したりするヒナたち。人工孵化では決して見られなかった温かな光景に、こちらの心まで満たされた。

シーシーは、周囲に対して神経質になっていて、巣箱に近づくと「ピュルピュルーッ」と尾羽を逆立てて怒る。山から帰ってきた文祥が、ニワトリ小屋にやってきた。巣箱をのぞきこみ、「すげえ、すっかり母親の顔になったね。地位は人(トリ)を作るってことだ」と言った。

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服部小雪

イラストレーター。さまざまな種類の鶏と、ヤギを飼うのが夢。夫の服部文祥と子どもたちとの暮らしを綴った『はっとりさんちの狩猟な毎日』(河出書房新社)が発売中。インスタグラムを始めました。yamatonatsu1109