服部文祥+石川竜一
THE JOURNEY WITH A GUN,AND NO MONEY
北海道無銭旅行
10月10日まで開催されている「あいち2022」の展示作品として、「いのちのうちがわ」に続き、服部文祥と石川竜一がふたたびタッグを組んだ。2021年10月9日から11月7日までの30日間にわたる、北海道南西部の徒歩での旅をアートで表現している。
服部文祥×石川竜一が表現するアートとしての山旅
これまでも本誌でタッグを組んできた写真家・石川竜一と手を組んで、7月30日からはじまった国際芸術祭あいち2022(旧あいちトリエンナーレ)に山旅を現代アートとして出展している。
山旅をアートってなに? と思うだろう。私もよくわからない。
身体を鍛え、技術を高め、野生環境を踏破して目的地にたどり着いて、無事戻ってこられるかを、体を使って証明する。登山とはそのような「身体表現」の一つであると、私は常々主張してきた。その主張に実行委員会が興味を持ち、あいち2022のコンセプトタイトルである「STILL ALIVE 今、を生き抜くアートのちから」がサバイバル登山の考えにも一致することも相まって、我々に出展依頼がやってきた。2021年の5月のことである。
最初は興味が湧かなかったのだが、ふと、アートはこれから登山の動機になりえるのではないかと気がついて、一気に気持ちが膨らんでいった。
登山はそもそも、人類の活動範囲を広げる冒険(純粋な登山欲)から始まったと私は考えている。ルネサンス期に科学的な世界観を手にした西洋文明は自然開拓を強化し、その後、登山は帝国と手を結んでヒマラヤ登山競争になり、さらには、冒険の支援が宣伝になると踏んだ企業がスポンサーに代わり、現在は、ほぼ個人のレクリエーションとして落ち着いている。今後、身体表現としての登山が行き着く先の一つは、歌舞伎やダンスと同じくアートであってもいいのではないか。いや登山はアートになるべきではないのか。
私は前のめりになり、石川は戸惑ったまま、紆余曲折のすえ、私と石川は国際芸術祭に出展する登山として、2021年の秋に北海道の渡島半島の無銭サバイバル登山を実施した。
身体表現である登山を会場にどう展示するかは、山旅に出る前からの懸案で、試行錯誤のすえに展示が始まった今も、悩み続けている。会場には、旅で獲った獲物の骨格標本や毛皮、地図、写真、録音した会話と音、会場だけで手にできる特製パンフレットなどで旅を再現したつもりだ。登山がアートになり得るのかどうか、会場に足を運んで自分の目で見て、できるなら率直な感想を聞かせてほしい。
「旅人本人が作品」という実行委員会の考えから、9月3・4日と、会期最後の10月8から10日には、服部は展示作品の一つとして、会場に在廊する予定である(詳しい日程はツイッターなどで要確認)。 服部文祥
国際芸術祭「あいち2022」常滑会場
現地レポート
名古屋の南方にある知多半島西岸の中央部に位置する常滑市。窯業(陶器製造)が代表的な産業で、中世から続く日本を代表する6つの窯場「日本六古窯」の1つである常滑焼が有名だ。
かつて土管を製造していた工場跡の風情に作品が馴染む
「あいち2022」の主な4つの会場のうち、服部文祥×石川竜一のアートの展示会場となったのが焼き物の街・常滑だ。陶器製造が最も盛んであった昭和初期の雰囲気を随所に残したノスタルジックな街並みの常滑やきもの散歩道にある廃工場「旧丸利陶管」に彼らの作品は展示されている。
展示会場内には、30日間北海道無銭旅行の行程地図や会話の音源、旅の中で獲った鹿の頭骨、「いのちのうちがわ」を写真や音で表現した小部屋などがある。
登山×アートを文章表現する会場限定販売の冊子
会場では作品の1つとして冊子を販売(1冊100円)。服部と石川、そしてナツ(服部の愛犬)による北海道無銭旅行の記録が3万字におよぶ文章で綴られている。この冊子を読むことで、展示作品の理解を深めることができるはずだ。
Information
国際芸術祭 「あいち2022」
「あいちトリエンナーレ」を前身とする「あいち2022」は国内最大規模の国際芸術祭の1つ。国内外から約90組のアーティストが参加し、愛知県内の4会場で、現代美術、パフォーミングアーツ、ラーニング・プログラムなどジャンルを横断した最先端の芸術を発信する。
会期:2022年7月30日(土)~10月10日(月・祝)
会場:愛知芸術文化センター、一宮市、常滑市、
有松地区(名古屋市)ほか
チケット:フリーパス一般3000円(学生2000円)/
1DAYパス一般1800円(学生1200円)
開館時間:会場によって異なる
WEBサイト:https://aichitriennale.jp/
※掲載内容は変更となる場合があります。最新の情報は公式ホームページ等にてご確認ください。