森の暮らしの最大の敵は虫だった。煙を浴びても水を浴びても落ちない人間臭さを洗い流して森に溶け込む。生活を作るのだ。森の水が使えることは生きる武器を手に入れたということだ。ここでどこまでやれるか挑戦したいと思う。かつての先人が開拓したように。
写真・文/荒井裕介
長期間森に棲むには欠かせない風呂
風呂に入らず真夏の北アルプスを新潟から長野まで単独無補給で縦走したのが20代後半の頃。12日間風呂に入らず最終日に鏡平で自分の臭さが獣並みだと気が付いた。帽子には塩がふきザックも臭う。もはや臭わないのはザックの中身だけといった経験である。あれから月日が経って若者ではなくなった僕は匂いが気になる年齢になったし、生活を作ると決めた以上、冒険者ではなく人としての営みを作り上げる必要がある。
幸いツテで檜風呂と灯油ボイラーを手に入れることができたのだが、風呂に使う大量の水を確保するために、森を流れる沢の水質を知る必要があった。保健所に検査依頼をして生活用水としての基準を調べたのだ。沢の水は水源から離れると色々なものを含む可能性がある。一般細菌や大腸菌が主だが、地質によっては鉱物なども含んでしまう。そうなると飲み水には適さないのだ。火山を有する那須では、昔から取水が悩みの種だったようだ。もちろん那珂川の深く落ち込んだ流れもあってのことなのだが、取水の難しいこの地で水が使えるのは喜びだった。食事は浄水ボトルでしばらくの間はしのげるが、風呂となれば話は違う。浄水ボトルではキリがない。
まだ作り途中の取水システムと発電システムはまた紹介するとして、今回は風呂に注目することにする。湿度の多い森では腐りにくい檜の風呂は大変便利だが、燃料を運び入れることのできないここでは灯油やガスは使えないので、灯油ボイラーはそのままでは使えない。薪は売るほどあるから、薪に頼るしかない。灯油ボイラーだって火で温めるのは変わらない。なら改造あるのみだ。
まずはそれぞれの組み合わせとサイズを知る必要がある。檜風呂は背負子で運べる大きさと重さであることがポイントだが、奇跡的に両者とも運べる大きさだった。ダメならアンパイなドラム缶も考えていたが、これで処分品を活かせると分かり正直宝物を頂いた気分になった。問題は斜面の多い森にどうやって転がらない風呂を作るかだ。風呂は家屋とは違い高床式とはいかない。笹の根が張り巡らされた斜面を掘り平らにして小屋を建てよう。それが答えだ! 今回どうしても間に合わなかった材料がもう1つある。それが原稿を書いてる今、僕の手元に届いたので、次号でお伝えするとしよう。
森に棲むなら道具も自作したい!
風呂を作る[その1]
古民家解体で出てきた出物の檜風呂を手に入れた。もちろん補修は必要だ。灯油ボイラーも廃棄物の再利用品だ。燃料は森中にある薪を利用するので、この灯油ボイラーをカスタムする。決して大きくないし便利ではないが、必要十分なシステムになるはずだ。これだけでも森ではとびっきりの贅沢品なのだ。
古い民家から出てきた風呂! 檜、銅張り。まさに高耐久の風呂である。しかも僕一人で楽々運べる重さと大きさ。天の恵みだ。
ボイラー
今ではほとんど見なくなった石油2口タイプのボイラーは分解が可能で、上部には煙突が付けられる。これを見たときの胸の高鳴りを今でも覚えている。
簡単に持てる重さとサイズ。なんとこの直径はペール缶と同じ大きさだ。ということはカマドはペール缶でいいのではないか! ほぼ構造が決まり、あとは取り付けを考えるのみだ。
ヒノキの浴槽
僕が1人入るのに丁度いいサイズで、軽くて最高だ。山ではこのまま転がらない風呂場を考えるだけだ。想像だけでニヤニヤしてしまう。夏はもちろん冬場には強い味方になるのは間違いなしだ。
追い炊きの穴は1つだけだ。これは後でボイラーに合わせて拡張と追加を行う必要がある。そうした加工も木製なら容易に行えるし、修理も簡単になるはずだ。
排水栓がある。当たり前だが湯船として完成しているものはありがたい。排水の傾斜や向きを考慮して開拓する必要がある。
ブッシュクラフター 荒井裕介
ソーシャルディスタンスはバッチリとれる孤高のハウスキーパー。移動制限が森にいるときに出て、帰っていいのか悩んでしまったが森暮らし準備はバッチリなブッシュクラフター。Youtuber始めました。検索してね。
浴槽にボイラーをこんな感じで取り付ける
浴槽に追い炊きの穴の加工をしたら専用のプラグとホースで繋ぐ。薪ボイラーは浴槽より低い位置に設置し、下にペール缶のカマドを置く。煙突を追加して完成なのだが木製の浴槽とボイラーの距離をしっかりとる必要がある。火を扱う以上火災には十分気を配らなければならない。排煙も効率を考えたい。