さようなら、ハシゴ! 森の暮らしが階段1つで劇的に変わった。階段は普段何気なく使っているが奥が深い。人が最初に見つけた人間工学的生活アイテムかもしれない。快適な暮らしを得るためには人間の快適な動きを知る必要があるのだ。もの作りは奥が深い。だから楽しい。
写真・文/荒井裕介
自然と共に生きることとは?
連日ニュースを騒がせた天候不順の影響は山にもあった。雨の合間を縫って入山した僕の目に飛び込んできたのはおびただしい数の倒木と変わり果てた小川だった。林道は深くえぐれ、倒木が道を塞ぐ。倒木をくぐりツリーハウスに急いだ。なんとツリーハウスは無傷で佇んでいた。僕の作り方は間違っていなかったのだ。強風にも耐え、豪雨にも耐えた。嬉しかった。ハシゴを掛けて中を確認したが雨漏りもなく、以前訪れた時の小屋のままだった。
しかし辺りを見回してみると森の異変に気がついた。キノコがなく森の匂いも違っていた。森も日照時間が少なく不作なのだ。街では金木犀が咲き始め、キノコの時期を知らせていた。そこから僕は山に向かった。そこでまた驚いた。標高が高い場所だからか、それとも山を一つ越えたからか、原因はわからないが森が完全に乾いている。岩に点在する草付きは枯れ、ここでも異常気象の影響でキノコが生えないのだ。乾いた急斜面を登り見つけたのは松茸が2本だけだった。この時期松茸が一面にあるのだが、その景色はなかった。晴れと雨、気温の変化がバランス良く訪れることでキノコは成長すると教わった。
さらに尾根を詰め上がりミズナラの森に着く。そこも乾ききっていた。何本もミズナラを確認し手にしたのが2株の舞茸だった。それでもありがたかった。例年より少ない恵でも、採れた季節の味覚を保存食にする。自然と共に生きるとはこういうことなのだと改めて感じた。
森に棲むなら自然の恵みを享受したい!?
山の幸を収穫する[その1]
秋の森は香りが変わる。今年夏は雨が多く、森の小川も鉄砲水で氾濫した。雨によって作業も進まないが山では食料事情も切実だった。今年は夏きのこもダメだった。秋のきのこに一縷の望みを込めて山へ向かう。森からのわずかな恵でも大切に頂き、保存したい。
周辺のキノコを探す
松茸は赤松、黒松の根元から松ぼっくりの落ちる辺りまでに生える。香りが良く食感もいいキノコだ。舞茸は白、茶、黒三種類あり、黒が最も旨いとされている。ミズナラや栗の老木に自生するサルノコシカケの一種だ。
今回の収穫は黒舞茸2株と松茸2本。舞茸の1株は山で美味しく頂いた。この2種類のキノコは乾燥させるのが保存法として最適だ。どちらも香りのいいキノコの代名詞で高級食材だ。
収穫したキノコを洗う
キノコは虫抜きとして濃いめの塩水で洗う。この作業は保存はもちろん採りたてを食べる場合にも必要な方法だ。
ボールに塩。これに水を加えよく溶かす。海水より濃いめに作るのがポイント。塩水により虫を吐き出させる効果があり中に入り込んだ虫も駆除できるのだ。
キノコの下ごしらえ
松茸は薄く分けたいので手ではなくナイフで薄切りにしていく。舞茸はヒダを小分けにするように手で裂いていく。できるだけ石付きぎりぎりまで無駄なく使用する。
キノコを干す[次回に続く]
松茸は薄く分けたいので手ではなくナイフで薄切りにしていく。舞茸はヒダを小分けにするように手で裂いていく。できるだけ石付きぎりぎりまで無駄なく使用する。
ブッシュクラフター 荒井裕介
森に棲む山岳写真家。YouTube荒井裕介のYOUチャンネルを開設。狩猟解禁が間近に迫りそわそわしている。森でブッシュクラフト教室を開こうと計画中。
階段は文明的な暮らしに必要不可欠
強度とスペースを確保するために階段はクランク式に踊り場を設けた。一段の高さは23㎝、幅は20㎝程度あれば上り下りしやすい。
踊り場はかなり高い位置に設定した。この森は雪がかなり降ることがあるので高さを設けた。基礎はもらってきた大谷石とブロックだ。基礎は大切。