今この日本で完全なサバイバル環境に晒される有事があるかと言えば、
自らそれを求めない限り、晒されるとしても最長1週間程度が現実的だろう。
警察消防組織が整っている日本なら、多くの場合それ以前に救助が入り、
必要最低限度の文明的な衣食住が与えられるはずだ。
となると、インフラなしで実質2泊3日ほど耐えられれば生存できるはず。
ここでは身体ひとつでそれを実現する知恵と技術をお届けする。
現代社会の狭間で生きるサバイバル愛好家ならどう過ごすか
カメ五郎の場合
生き抜く自信をつけるため我々が採るべき選択肢
おそらく今この時代を生きている本誌読者世代は、自然災害の脅威をもう経験しているか、今後かなりの確率で経験することになるはずだ。いつ何時訪れるかわからない脅威に対して、我々が今できることは何か? 非難場所を確認する、災害直後の行動手順を覚える、防災グッズを揃えておく……etc。備えは基本的な行動から高度な技術まで、完璧を求めるならば星の数ほどあるだろう。
ただ、どれだけ周到に備えていようとも、根底に必要なのはやはり精神の平静だ。土壇場で冷静さを失ってしまえば、文字情報として覚えていた知識などすぐに吹き飛んでしまう。極限環境を生き抜いてきた歴戦のサバイバリストの経験談をまとめても、最終的には皆精神の鍛錬へ行き着いている。それは“どんなことが起こっても対応できる自信”とも言い換えられるだろうか。自信が心の拠り所となって、極限環境下でも精神の崩壊を防ぐのだ。
では、そんな自信をどこで養うのか。我々は世界に羽ばたく冒険家ではなく、コツコツ働く自営業者かサラリーマン。トム・ソーヤーを倣うことは実質無理である。
とういわけで、ここで我々の選択肢に現れるのが最強の素人サバイバリスト・カメ五郎という存在である。スポンサーを口説き落とすほどの嘘は言えないゆえ、世界を股にかける大冒険こそしていないが、日々山にこもって等身大のサバイバルに勤しむ姿は庶民的だ。勤勉だが、我々アウトドアマンの少し上を行く好奇心と大胆さを持ち合わせていて、見習うにはちょうど良い人物なのだ。
今回はそんなカメ五郎に、実際にありえそうな想定として、街で2泊3日、インフラなしでそれなりに楽しく過ごすなら、というお題を出した。カメ五郎にとってはもはや十八番とも言える設定だが、これなら我々も追体験可能な範疇だろう。ぜひ参考にしてほしい。
環境プレッシャーを すり抜けるための必須スキル
近所で寝床を確保する
雨風日光が防げる 天然の寝床作りはここで!
街でのサバイバルで何かと都合が良いのが河川敷(もちろん洪水のような災害時は別)。シェルター作りに欠かせない天然の木枝や葉っぱが自生しているのはもちろんのこと、人間社会に追いやられる形で自然環境が囲われているため、周囲の動植物が集中しているのだ。後々の食糧採集を考えてもここが最善。
街にはいない生物もここならわんさといる
近頃ではホームセンターの商品にもなっているカブトムシやクワガタの類も、河川敷に足を運べば見つかる可能性が高い。ここしか生きる場所がないため、密集しているのだ。
カメ五郎の一例
野生環境をそのまま活かすことで作業時間を大幅に短縮 『Wild Willow Shelter』
今回寝床として選んだのは幹が折れて倒れた柳の下。大きく覆いかぶさった葉をそのまま屋根に見立てることで、木枝を集めてこしらえるデブリハットやティピーよりも製作時間を大幅に短縮できるのである。サバイバル時の早急な寝床作りは一から作るのではなく、まず周辺環境をよく見て天然のシェルターを探すのが吉だ。ちなみに木が自然に倒れているということは地盤が緩かったり、大雨などで増水したりするエリアでもあるので、いざというときの退避路をきちんと確保しておく。
01.場所を探す
シェルターとして使える 自然の造形を探すべし
周辺を探索していると、倒れた柳の下に人間が生活できるスペースがあったのでここに決定。柳は大きく成長すると幹が折れて倒れる場合があるが、そのまま成長を続ける生命力を持っているのでシェルターに使えることが多い。
若い柳の枝は粘りづよく折れにくいので、これでカゴなどを編むこともできる。フジ蔓に並び、カメ五郎がお気に入りの樹木の一つだ。
02.日よけを作る ※状況により雨よけ
周辺の雑草を刈って藁葺き屋根を作る
倒れた柳の葉により屋根の骨格はできているので、あとは周辺の雑草をそれに乗せ絡めていくことで屋根ができる。雨が降っていなければ隙間を埋める程度で十分に日差しが防げるし、雨が降っていれば二、三重に重ねて雨水の侵入を防ぐ。
03.快適性を確保する
ここでの生活を想像し、環境を微調整していく
大方屋根ができてきたら、実際に生活する上での居住スペースを考えて、寝転がったりしながら屋根に藁を追加する、下草を刈る、倒木を切るなどの微調整を加えていく。
居住空間に差し込む木漏れ日を遮断していくと、最終的に屋根の藁葺きは結構な厚さとなった。これなら突然の小雨程度なら十分に防げるだろう。
04.熱源を確保する
熱源は河原の石で囲み万が一の延焼を防ぐ
野外は夏でも肌寒いことがあるので、寝床の隣に熱源として炭置き場を設けた。調理は河原で行った方が効率が良いため、ここは暖房専用だ。寝床の隣にあることと周辺の雑草を考慮して、周囲は延焼防止の石で囲み、ここに調理の際にできた熾火を置くことにする。
05.使えそうなものを探す
河川敷はブルーシートや 土嚢袋の宝庫である
本来そうあってほしくはないものの、河川敷には人工物の落し物(廃棄物)も多い。野営におけるブルーシートの有用性は抜群なので、これは迷わずゲット。土嚢袋なども加工次第で網になるなど、とりあえず拾っておきたい。
06.拾い物を活かす-1-
ダンボールは有効な断熱材になる
河川敷で拾ったダンボールはスリーピングマットとして使用。強度を出すための中空構造は断熱にも有効で、地面からの冷えを防いでくれる。これでも足りなければ雑草を盛って、その上にダンボールを敷けば良いだろう。
余ったダンボールを丸めて、断面に周辺の笹などを差し込み固定。簡易的な枕も作った。
07.拾い物を活かす-2-
四隅にハトメがないタイプのブルーシートは、一緒に石などを丸め込んでロープで縛れば屈強に連結できる。
とりあえずブルーシートは移設可能な補助天幕とした
拾ったブルーシードが思いのほか小さかったので、日差しや雨風の変化に対応できる移設可能な補助天幕とした。四隅を木枝に固定すれば完成。なお、完全防水素材であるブルーシートの特性を活かして、風が冷たいときはこれを体に巻いても良い。
当然ロープも用意していないので、周辺のフジ、クズなどの蔓や若い柳の枝の樹皮を剥ぎとってその代用とした。
08.一旦完成
天候が良ければ2時間弱で作れる
当日は天候が良かったため、屋根の藁葺きも最低限で済んだことから2時間弱の所要時間で完成した。これが雨天での作業となると倍以上の時間を要するだろう。あとは環境の変化に応じてカスタムしていけば良い。