【vol.45】シュンランをいただきま~す

今年は2月に入ってから、暖かかったり真冬のように寒くなったりと変な気候だけど、なんとか春は来た。東京から離れ栃木に来て3回目の春。なんとなくどこに何があるのかわかってきた。私の住む周辺の小さな山は、真面目でちゃんと里山らしい雑木山をしている。落ち葉は集めて、木は間伐をしてちゃんと利用している。そんな山は、生き物が豊かでなんでも見られる。私は毎年どこにいてもそうだが〝これが春だ!〟を現場でしっかりと味わいたく、この時期うずうずして、いてもたってもいられない。そしてついにその日が訪れた。

桜が咲き始めた暖かい日に、「よっしゃー」と里山散歩に出かけた。見たいものはた~くさんある!「今年もいるかな? 出ているかな?」とワクワクしながら林道を歩く。越冬していたチョウが陽のあたる所に止まっていたり、生まれたばかりのチョウがラブラブで飛んでいたり、やっぱ歩かないと感じられないものがあるね。伐採したコナラがたくさん並んでいる。こんなところには春最初に出てくるカミキリムシがいるはず。目を凝らし探してみると忙しく歩くクリストフコトラカミキリ。これこれ! やっぱ毎年会えるな! 倒した木を並べておくだけでカミキリやハチ類はやってくる。これに会いたいときは伐採した木を並べて置いてあるところ。特にコナラにはよく来ている。

ふと斜面を見渡すとカタクリが群生しているではないか。カタクリは保護しているところでは観賞用ではあるが、林道で誰も来ないようなところでは雑草。誰にも見られずに終わる。場所にもよるがこの周辺ではあっちこっちで見られる。田んぼでも出ているところがあるくらいだ。咲いてるところにでくわしてなんだか得をした。イチリンソウやニリンソウにも会えた。

クヌギやコナラの斜面を歩きスミレ類が何種類か咲いているなーと思っていたら、明るい場所にシュンランが咲いていた。これもここでは雑草だ。探すと所々ではあるが何本も見つかった。ずいぶん前にシュンランの天ぷらを出す店で、食べてみたかったのにコースにしかつかなくて、高価すぎてやめたことを思い出した。こんなにあるならこれ食ってみるかと、花の茎だけを数本採集した。なんでも食べる私だけど、これはまだ口にしたことがない。どんな味がするのかも聞いたことがないので楽しみだ。根や葉は手をつけていないので枯れることもなく、なくなるわけではないので乱獲にはならない。

散歩はこんな収穫もあるのでやめられない。コシアブラやタラなどは、この2週間後ぐらいに芽を出し始める。お気に入りの林道ではどんな木がどこにあってなどを覚えておくと、食べたいときに採取できるのだが、たくさんの人が来るようなところでは、ライバルが多くいやしさが出てしまい我先にとなる。私の場合は春の味を楽しむくらいにしている。そもそも、アクが強いのが苦手で、フキやタラははっきりいって食べない。

色々な虫や植物、鳥の声で、今年も最初の春を感じられた。この後、新緑の春がすぐにやってくる。芽吹きはあっ!という間に過ぎていくのでこれもまた必見。田舎にいると都会のことがわからないが、少し大きな公園など身近でも新緑は見ることができる。家から近いお気に入りの林や山で是非経験してもらいたい。自分をリフレッシュしてください。

春最初に姿を現すクリストフコトラカミキリ。産卵しに伐採したコナラの木にやってくる。

薪に利用するために冬の間に切られたコナラの木。他にもクヌギやヤマザクラなどがあった。

ミヤマセセリ。春に生まれ飛び回る。これがたくさん飛んでいると“春!”ってイメージだ。

越冬から目覚めたルリタテハ。飛び回っては日の当たる場所で休む。タテハ類は他にも飛んでいた。

イチリンソウ。群生するので、花が咲くと見応えがある。ニリンソウと似ていて、どちらもトリカブトの仲間で、毒草だがニリンソウは食べる人もいる。

今回ドンピシャだったカタクリ。里山の早春の花の代表だ。根から採るデンプンは高級片栗粉。

春の蘭で“シュンラン”。栽培や園芸で人気のある蘭だ。花は1株に1本ずつ出るがたまに2本出ることもある。

花は土の中から茎を伸ばすので、できるだけ低い位置で抜く。引っ張ると抜ける。

シュンランを調理する

 

ゴミや汚れを取るために流し水で洗う。虫がついていることもあるので丁寧に。

キッチンペーパーなどで水分をきれいに拭き取る。揚げるので水分があると油が弾ける。

天ぷら粉をボールなどに入れ冷たい水でダマにならないように溶く。

せっかくなので、上品にかっこよく揚げる。花の裏側だけに天ぷら粉を軽くつける。

カラッと揚げるには油の温度を180度にキープ。たくさん入れずに少しずつ揚げる。

サクッとカラッと揚がった!通ぶって塩で食べる。ほんのり甘く、香りがある。上品な味だ。茎は固く食べない。

日本野生生物研究所 奥山英治

主にテレビ番組やアウトドア雑誌や本などを中心に、自然遊びや生き物の監修などで活躍中。「触らないと何もわからない」をモットーに子供向けの自然観察会も行っている。著書に『虫と遊ぶ12か月』(デコ刊)などがある。