【vol.45】手作業は道具とともにある 祖父の残した道具を使う

街は春でも森はまだまだ冬。時折雪が舞い積雪になることもある。その度作業を中断し凍てつく体を焚火で温める。もうじき全てが出来上がる。僕の山暮らしは本格的な共存に向かって進んでいる。あと一息だ。
写真・文/荒井裕介

厳しい季節に耐える小屋を考える

暖かく過ごすことは人類が家に求め続けてきたことである。温暖化によって夏にも高断熱が求められる時代になったが、それは都市での話のようだ。冬に暖かく過ごせれば森の暮らしは快適だ。一夏を超えてみて、夏の間森の木々たちが夏の日差しを遮り僕を守ってくれていることに驚いた。季節が進み気温が下がると落葉が進み、森に暖かな日差しが届く。季節ごとに太陽とともに過ごす機能が自然にはある。しかしそれは昼間の話で、冬の夜は寒い。壁には断熱材を入れ、窓は二重窓にする必要があるのだ。ただ、ガラスは重く脆いため運搬には向かないし、森では木の実や落枝などで割れる心配がある。何か良い方法がないかと悩んでいたら、ポリカーボネートの中空ボードをホームセンターで見つけて〝これだ!〟と思った。

窓枠は通常大工仕事ではなく建具師の仕事だ。運良く親戚に腕のいい建具師がいる。森の条件と小屋の作りを話したところ建具師の叔父から適切なアドバイスをもらえた。

初めて作る窓にしては上出来となった。もちろんかなりの自己満足だが窓から眺める景色が絵画のようでたまらない。この手作りの窓が、たった一人でここで暮らす僕の社会の窓なのだ。

実は撮影後に内装や建具は進み、さらなるギミックが増えている。「不便は発明の母」と年寄りのようなことをブツブツ言いながら、自己満足タイニーハウスはさらなる進化を遂げる。そこに住むにはもう一つ大切なものを作り始める計画が進んでいるので乞うご期待。

今回のハンドツールは削る道具

仕上げや微調整が必要な内装作業には削りが得意な道具が必要だ。プレナー(カンナ)は万能だが新たに購入するのも違う。80年以上も前に作られたドローナイフと家にあったハンドサンダーで仕上げをすることにした。

ホームセンターで手に入るハンドサンダー。軽量で扱いやすくとても便利だ。ザックに入れて持ち運ぶのにも最適な道具だ。

醤油の街千葉県野田市で樽職人をしていた祖父がかつて使っていたセン(ドローナイフ)。手作りでとてもよく切れる素晴らしい道具だ。

森に棲むならアウトドアマンの夢を実現したい!?
ツリーハウスを作る[その4]

落雪や枝、木の実など、季節に応じて色々なものが降ってくるので割れない窓がいい。そして軽量で運搬しやすく高断熱のものを選びたい。そこで注目したのが中空ポリカボードだ。このボードは中空なので二重窓と同じ効果があり、カーポートの屋根にも使われるほど強度がある。森の窓にはうってつけの素材だ。

窓を作る

小屋は森の中にある。虫が飛ぶ季節にはもちろん蚊や毒虫も小屋への侵入を試みる。網戸はマストアイテムだ。小屋のサイズや窓の配置で窓の開閉を考える必要がある。スライドタイプと跳ね上げタイプで空間を最大限に活用。

スライドタイプは鍵金具を利用し全閉と全開位置でストップするように取り付ける。ガラスではないので万一枠が落下しても割れない。

ポリカの窓はアンテーク窓のような雰囲気があり木製のフレームと相性がいい。跳ね上げ式は蝶番で上部を固定する。

窓枠を整える

鎧ばりした外壁が窓枠の骨組みより出ている部分をドローナイフで整える。カンナではどうしても角までは整えられないがドローナイフではそれが可能になる。こうした作業には心強いアイテムだ。

ドローナイフのみでここまで平に仕上がる。この後ハンドサンダーで均せばきっちりと窓枠がハマるようになる。

内装を貼る

内装が大方終了室内一人分のスペースとしては十分だ

座ってみると広い。欲張らなければ十分暮らせる大きさだ。屋根が気になるって? 屋根には天然の断熱屋根を入れる。それは次回のお楽しみ。木の香りが心地よい快適なタイニーハウスに今は満足中なのだ。

調理スペースを作る

狭い部屋に調理スペースは作れないし、シングルバーナーで簡単レシピというのも山の恵を堪能するのにはちょっと違うのでしっかりとしたキッチンが欲しい。イカツイ系のオトメンならではのこだわりがここにはあるのだ。

ブッシュクラフター 荒井裕介

山暮らしで必要な物は野生力と気づき本格的な筋トレを始めた山岳写真家。バルクアップ中に戻らなくなるのではと不安な40歳。まだまだ動く体を作り続けるべく山でも丸太をバーベル代わりにトレーニングしている。