【vol.42】冬支度の小屋作り秋の野営は贅沢な時間

小屋があっても野宿を楽しみたいシーズンがやってきた。森に残る大型台風の爪痕も自然がもたらすものだ。雨後に香る秋の味覚もそんな自然の営みがもたらす恵みである。一年で最も穏やかに時間が流れる季節の森を楽しむ。
写真・文/荒井裕介

古きを知り足るを知る電気レス生活

毎週のように台風が上陸し、各地に猛威をふるった。山の作業にも大きく影響が出た。材料を運搬する林道を塞ぐ倒木をどかして、あちこちに散乱している枝を片付ける。作業が進まない。冬までには新たな寝ぐらを作らなければならない。

山から吹き下ろす風が冷たいこの森には、暖かい寝ぐらが必要だ。風を感じ季節の流れを感じるのにツリーハウスはうってつけである。子供の頃に憧れた冒険の秘密基地もこんな感じだったし、見知らぬ森で出会いたいのもドワーフやホビットが住むような、木や土でできた家である。

秋に入り、森が騒がしくなっていた。たくさんのキノコが顔を出し彩りを加えていたのだ。もちろん食用だけではなく毒キノコもちらほら生えていた。沢沿いにはトリカブトも自生し、原生林ならではの植生を見ることもできる。森に持参できる道具は限られている。バックパックに入る道具のみだ。大きすぎるものや重量のあるものは運び入れることはできない。もちろん車を使えば運べるがそれはルール違反だ。ルールといっても僕が作ったルールなのだが、それを破るとなんでもありになってしまう。背負子で背負えるか、バックパックで運べるレベルのものに留めたい。

家を作るにはノミ、ノコギリ、カナヅチ、差し金、ハンドドリルがあればいい。あとは見よう見まねで、現場対応の技術がほんの少しあればなんとかなる。いつもより少し高い木の上に居を構えるだけなのに、森が見渡せて空が近くなり、森の一部になれるような気がする。何よりも子供の頃の夢が1つ現実のものになるのがたまらなく嬉しいのだ。生活を作る術はまさにブッシュクラフトなのだ、と一人で噛み締めた。森と木の温もりを感じ、秋なのに暖かい気がした。

ある物だけで道具を作る。考えることは進化に繋がる。

BUCKの小型ナイフを利用してキノコ鎌を作った。適当な枝に小型ナイフを挟み、紐で結ぶだけ。これがあると収穫量が変わる。ヤマブシタケやアケビの採取に便利なアイテムに変わる。

森に棲むならアウトドアマンの夢を実現したい!?
ツリーハウスを作る[その2]

柱の長さを確保するのが難しい場合は継ぎ足せば良い。できるだけ釘を使わず木の持つ特性を活かしたい。湿度に応じてお互いをしっかりと結び合わせてくれる。プロの技とはいかないが、見よう見まねでも頑強に組み上げることができた。挑戦は自分を強くしてくれる。かつての生活術であった伝統の方法は、ブッシュクラフトそのものだった。

継ぎの方法

刃物だけで組み上げる技法は木の特性を活かした方法だ。道具の使い方と素材を知れば誰にでも挑戦できるはずだ。ノコギリとノミもれっきとしたブッシュクラフトアイテムなのだと実感した。まさにクラフトアイテムである。

ノコギリで縦に切れ込みを入れたら、ノミで木目を断つように切り込んでいく。この時、切れ込みは少しずつ入れていかなければならない。両側から少しずつ進めていくのがコツだ。

メスのすげ込みができたらハンドドリルで穴を開ける。すげ込みの中央にくるように開けること。メス側の作業はここで終了になる。すげ込みの微調整はこの後作るオスで行う。

オスメスを合わせた状態。これだけでも十分ぶら下がれるくらいの強度はある。しっかり叩き入れ、ズレのないように合わせておく。きつすぎると割れの原因になるので注意だ。

クサビを作る。半生の枝を斧で削っていく。長さは角材の2倍ほどで作る。ストレートブレードの斧は作業性が高く手が疲れにくいので有効だ。

④で作ったクサビを打ち込む。少しずらして開けたオスメスの穴にクサビを打つことによって、互いを引きつける。飛び出した部分をカットすれば完成だ。仕上がりもきれいにいった。

キッチンエリアの構築

これから始まる計画には“暮らす”ことが必要になる。いかに自然の中にインフラを整備するかが大切だ。その一歩がキッチンである。構想通りにいけば必要最低限の暮らしが得られるはずだ。

継ぎの要領で十字に柱を組み合わせる。組み木は予想以上に強くしっかりと組み付けられる。パワーのある電動工具を使えないなら、昔ながらの方法が一番強い。

フレームが完成! やっとここまで来た!

一番大変な作業は終わった。フレームができたら、あとは棟上げして内外装を仕上げれば完成。ここからは急ピッチの作業になる。あと何号かでここからの暮らしをお届けできるはずだ。自然と共に生き、足るを知る生活がここから始まる。冒険もここから始めてここに帰ってくる。僕の秘密基地だ。

ブッシュクラフター 荒井裕介

森での生活には動ける体が必須条件だ。40歳になって再び体を鍛え直す山岳写真家・ブッシュクラフター。究極に動け、足を知るを座右の銘に修行に目覚めたが、実はスイーツ大好き。現在、狩猟解禁を心待ちにしている。