【vol.42】酷道341号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

色んな意味で酷い秋田県随一の酷道「酷道341号」
秋田県由利本荘市〜秋田県鹿角市

全国的にみると、酷道の多い地域と少ない地域がある。当然、大都市圏では道路整備が進んでいるため、酷道は少ない。岐阜県など山間部を多く抱える地域では酷道が多い。私が岐阜に住んでいるのは、そうした理由からだ。

そう考えると、東北には酷道が多いイメージを抱くが、実際には数えるほどしか存在しない。そんな酷道不毛の地である東北を、酷道仲間と3人で訪れる機会があり、秋田県の酷道を走ってみることにした。乗っている車は、この春就職した若者が買ったばかりの新車のフリードだ。納車から1ヶ月も経っておらず、車内には新車の匂いが漂っている。

国道7号を日本海に沿って北上していたが、秋田県由利本荘市付近で脇道の国道341号へ入る。センターラインこそ無いが、それほど酷くもない地味な道がしばらく続く。右へ左へ本線が曲がりくねり、いよいよ山に近づいてきた。山に入ってからが、酷道が真価を発揮する。

待避所までバックしなければ対向車とすれ違うことができない道幅となり、路面には無数の石が転がっている。これでこそ酷道というものだ。助手席から写真を撮っていると、運転していた若者が車を停めた。

「おっさん、運転代わってや」

買ったばかりの新車で酷道を攻める自信がなかったようだ。それにしても、10以上の年齢差があるというのに、若者はいつもおっさん呼ばわりしてくる。だからこそお互い気兼ねなく、いつも一緒に遠征しているのだろう。

道は一層険しくなり、両サイドから草が迫ってくる。進むにつれて草の浸食が激しくなり、ついに車幅を越えて攻め込んできた。車の両サイドからガサガサという音を立て、草を掻き分けながら前進する。時おり“キー”という嫌な音が聞こえるが、新車だし、聞こえないふりをしておこう。これぞチーム酷道流の慣らし運転だ。こうして、新車が少しずつ酷道に馴染んでゆく。

藪を抜け、もう一つの峠・雄和高尾山に差しかかると、国道本線ではなく別ルートでの下山を促されるが、酷道を突き進む。路面には落ち葉が堆積し、現役の国道とは思えない有様だが、我々が“オニギリ”と呼び、愛してやまない国道標識が存在感を放っている。

峠を下ると県道9号にぶつかり、高規格道路となる。酷道区間は、これでほぼ終了なのだが、我々の旅はまだ終わらない。その後、しばらく国道46号との重複区間を走り、田沢湖付近から北上する。

のどかながらも2車線の快走路を走っていると、玉川ダムが見えてきた。気になった場所には全部寄るのが我々の旅のスタイル。夕暮れの空が反射したダム湖を眺めながら、国道を完走するべく先を急ぐ。

鹿角市に入ると、脇道や待避スペースがことごとく閉鎖されていた。立て看板を見ると“クマによる人身事故防止のため入山禁止”と書かれている。色んな意味で危険がいっぱいの酷道だった。

オニギリがなければ国道と気づかないだろう。

クマによる人身事故防止のため入山禁止を伝える看板。道は快適だが、状況が酷い。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。徐々に仲間を増やしながら活動を続けている。
http://www.geocities.jp/teamkokudo/