【Vol.42】今すぐできる野食の勧め ー人間本来の自由を実感できる脱・常識の第一歩ー

ヒトが生きるために必要なのは共に生きる動植物たち

近頃頻発するスロースリップ(ゆっくり地震)。これは大陸プレートの歪みが限界付近に達し、ギリギリのところで耐えている際に起きる現象らしい。つまるところ近い将来、またもや未曾有の大地震が待っているという。将来の不安を煽って皆を誘導するのは汚い政治の常套手段だが、こうなってくると今号は正直に言うほかあるまい。飽食の時代にあえて野食を実践する意味は、美味い飯を得るための本能と人間本来の姿を取り戻す脱・支配にあるが、これまでもこれからも、本誌が暗に意図しているのは防災である。

続・飲料水の確保術

自然界の動植物を食べる前に、災害に備えるならひとつ重要な糧の得方を知らなければなるまい。近くに綺麗な渓流がなく沼や海しかない場合の(山に住まない限りはそうだろう)、自然界から純水を得る方法だ。

写真/降旗俊明

知っていて損はない身近な水の蒸留法

特集の冒頭で紹介した「ファイヤートライアングル」の通り、火は燃料、酸素、熱の3要素が連鎖することで維持される。それを焚火に適用するとなると、薪が絶えにくい型、空気を取り込みやすい型、熱を溜め込みやすい型など、今自分が置かれている状況に適した特徴を焚火に与えることができる。

また、ひとえに薪が絶えにくい型といっても、それを調理のために求めているなら広い火床に薪が自動投入されていくタイプ、夜間の暖房のために求めているなら大きな薪を少しずつ確実に燃やしていくタイプといったように、焚火に与える特徴はさらに細分化できるのである。

というわけでここでは、長大なアウトドア史の中で先人たちが生み出してきた焚火型を、それぞれ野営家が求める状況別に紹介していきたい。当然、定番として語り継がれてきた焚火型というのはどれも基本性能が高いのだが、例えば用いる調理具の種類によって向き不向きがあるので(「ADDING GEAR」項参照)、その点も自身の野営環境と照らし合わせてほしい。

最後に、これらはあくまで膨大な焚火型を体系的にまとめた一例であるため、実際はここに自身の発想を加えて、さらに使いやすい焚火へカスタマイズしていくことをお勧めしたい。先人が発見してきた基本技術を踏襲しつつ、そこに小さなオリジナリティを積み重ねていくことこそ、ホモ・サピエンスの流儀である。


身近な日用品だけで構築された野外蒸留機プロトタイプ
FIELD DISTILLATOR

蒸留とは、混合物を一度蒸発させ、再び凝縮させることで沸点の異なる成分を分離・濃縮する操作だ。泥や砂利、金属類などの固体はもちろん、汚水に含まれる多くの毒素は水よりも沸点が高いため分離される(例えばセシウムの沸点は658℃)。今回製作したのは蒸留酒の製造に用いられる装置各部をそのまま日用品に置き換えたもので、蒸留釜~貯蔵タンク間の導管が長いのが特徴だ。沸騰したヤカンの口にコップをかけるだけでも少量の水は獲れるが、ほとんどの水蒸気は水滴になる前にコップから逃げてしまう。導管を長くし、途中で冷やすことで、先の問題を解消したというわけである。

蒸留酒の製造システムをそのまま日用品で再現

ヒントはウィスキーの蒸留装置で、ポイントは導管に設けた冷却槽。水の流れをスムーズにする各部の高低差は、ブッシュクラフトの定番工作物であるトライポッドを利用した。ただし、あくまでこれは編集部製作のプロトタイプなので改善の余地はまだまだある。自身のアイデアを投入して精度をあげてほしい。

[蒸留釜・加熱炉の構造]

源水の水位

源水は泥でぬかるんだ水たまりから取得。この際、ヤカンいっぱいまで源水を入れず、注ぎ口への水蒸気の通り道を確保しておきたい。ここを塞いでしまうとほとんどの蒸気は蓋から出てしまう。

加熱炉のレイアウト

ホースに耐熱性はないので火床も離れた位置にセット。ここではヤカンを吊り下げることで、炎~ヤカンの位置調整を容易にしている。熾がある程度できれば、そこにヤカンを置いておくのが一番だ。

蒸留釜~導管の接続

ヤカンの注ぎ口にそのまま散水ホースをねじ込んで蒸留釜~導管を接続。熱の影響をできるだけ避けたいので、あまり深くまでねじ込まない方が良いだろう。

[冷却槽の構造]

冷却槽のシーリング

バケツに水たまりなどで得た水(※)を入れて水冷式の冷却槽を作る。ポイントはホース外径に合わせた穴を棒ヤスリなどで空け、水が漏れないようグロメットでシールすることだ。グロメットはビニールテープの厚巻きなどで代用できる。
※ここでは構造がわかりやすいよう川の水を用いた

蛇管(導管)の高低差

ホース内側についた水滴をいかにスムーズに下方へ流すかが冷却槽のポイント。ヤカンから上がってきた水蒸気が貯蔵タンクへ落ちるよう、ホースは綺麗な螺旋状にする。

[貯蔵タンクの構造と蒸留成果]

導管のレイアウト

最終的に導管は貯蔵タンクへ差し入れておくが、この際導管をできるだけタンクの底へ近づけて、ここでも水滴にならずに到達した水蒸気を凝縮させる努力をしたい。

集水過程

ヤカンの中の源水が沸騰を始めると、すぐさま導管の内側には水滴がつく。数十分もすればそれが蒸気とともに貯蔵タンクへ落ち始める。

蒸留成果

容量2Lの貯蔵タンクに約30分の蒸留で溜まった純水。水たまりの濁った泥水は見る影もなく透明になり、かすかに焚火臭がするだけだ。導管に用いた散水ホースの耐熱性を改善すれば(※)、十分に実用可能だろう。
※それでもヤカン~導管の接続部が溶けるなどということはなかった

成功は一回にして成らず 野外蒸留機の失敗例

一升瓶を用いた蒸留

水蒸気を逃さず導管へ導くことを考えた際、身近にあるもので最も理想的なのは一升瓶であると考えて最初に試してみたが、最終的に瓶の耐熱性がなく、蒸留釜が割れて失敗した。

一升瓶の口は内径約20㎜が規格。散水ホースもちょうど外径20mmだったので、シーリングなどをせずに差し込むだけでぴったり密着した。

一升瓶を直接火にかければ割れてしまうので、最初は湯煎を試すも源水は沸騰せず。石焼きに変えると沸騰を始めたが、しばらくして瓶底が割れてしまった。

結果は湯煎、石焼き仕様を合わせて一時間ほど試し、小指の爪ほどの純水を取得できた。やはり盛大に蒸留釜を熱せなかったことが敗因だろう。

導管に高低差がある蒸留

一升瓶での蒸留レイアウトをそのまま活かしたヤカン仕様。源水は勢いよく沸騰するが、冷却槽までの高低差がありすぎてホース内の水滴がヤカンに逆戻りしてしまった。