【vol.31】酷道265号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

酷道マニアも逃げ出す九州最強の酷道
宮崎県小林市〜熊本県阿蘇市

通常、酷道というは国道のごくわずかな区間に過ぎない。しかし、この265号線は九州山地を縦走し、酷道区間が長く断続的に続く。山地に囲まれ交差する道も少なく、一度走り出すと逃げ出すことも困難。酷道マニアも音を上げる過酷な道のりだ。これは、何としてでも全線走破しておきたい。
 
起点の宮崎県小林市から走りはじめると、すぐにセンターラインは消え、対向車との離合が困難な酷道と化した。退屈な道を延々と走る必要がなく、なんとも展開が速い。
 
輝嶺峠に差しかかると、さらに道幅が狭くなり、ガードレールもなくなった。街中のどうでもいい場所にはガードレールが設置されているのに、落ちたら死ぬような場所に限って設置されていない。
 
車幅ギリギリ、左は切り立った崖、右はガードレールのない谷底という手に汗握るドライブ。我々酷道マニアにとって、こうした状況こそ最高に楽しい。そして、楽しい時間はいつまでも続く。嫌になるくらいに。
 
輝嶺峠を過ぎると、右手に木造校舎が見えてきた。こんな山奥に学校があるのかと疑問に思ったが、近づいてみると廃校だった。かつては、小さな集落にも必ず学校があったが、現在、そのほとんどが廃校になっている。この辺りにも、 昔は集落があったのだろう。早速、お邪魔してみる。小学校と中学校が併設された木造校舎が、どこか懐かしい。黒板に残された“さよなら尾股校”の文字が哀愁を誘う。
 
車に戻り、しみじみとしながら運転していると、立派な滝が見えてきた。落差25メートルの“野地の大滝”だ。水しぶきを感じてリフレッシュしたところで、先を急ごう。滝を過ぎると、今朝走ってきた酷道388号との重複区間に差しかかる。こうして、ただ酷い道を走るためだけに、何時間もかけて鹿児島まで迂回して、また帰ってきた。なんというか、我ながら物好きだ。
 
わずかな重複区間を過ぎると、最後の難所・飯干峠だ。標高は1050メートルと、国道265号線の中で最も高い。峠を過ぎて下り坂に入ると、道幅が限界に狭くなった。右手は切り立った崖下で、もしも落ちると100メートル近く落下することになる。ここはさすがに危険だと思ったのか、ガードレールが設置されていた。車を寄せる道幅もなく、車のドアを開ける余裕すらない。そんな最狭区間が続く。飯干峠をクリアすると、単調な道が続く。途中に峠もあるが、いずれも改良されていて、酷道ではない。
 
最後の箱石峠付近では、阿蘇山の絶景を眺めることができる。夕暮れ時の阿蘇は、とても綺麗だった。
 
国道57号にぶつかる終点に到着した頃には、すっかり日が落ちていた。日の出前から日没まで、ずっと酷道を走り続けていたことになる。とても充実した一日だったが、問題があるとすれば、明日の早朝から岐阜で用事があることだろう。残された時間は12時間、距離は1000キロ。エクストリームな旅は続く。

開始早々この酷道っぷり。

廃校跡に残された“さようなら”の文字が胸に刺さる。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。徐々に仲間を増やしながら活動を続けている。
http://www.geocities.jp/teamkokudo/