【Vol.38】有害・外来種図鑑 ー他人ごとではない身近な敵の防除法を考えるー

誰でも釣れる外来種の食べ方

時は関東を大寒波が襲った1月22日、よりによってこのタイミングで誰でも釣れなきゃ困る外来種の取材である。そこはそれ、伝家の宝刀を抜くしかないよね。という流れで決行、小塚に同行した有毒コロボックル「ざざむし。」の管理人が赤裸々に記録する。

文/日比野理弘

記録係 日比野理弘

通称ざざむしの人と呼ばれ、高級食材も未知の命も皿の上の重さに差はなく気になるものは食べてみるだけの人。人が不味きに遭遇することを願うような人を清々しく裏切りたいと思っている。思ってないよ。

怪魚ハンター 小塚拓矢

世界を渡り歩く怪魚ハンターとして通りが良いが魚の大きさによる愛の違いはこれっぽっちもなく、実はドブに力強く生きる魚達も大好きで世界中のドブを攻めてきたドブクライマーでもある。つよい。


忘却され価値の見出されない中国四大家魚

ハクレンは日本には1878年から持ち込まれ、プランクトン食性ながら巨大化することで食用魚として期待された。同時代に持ち込まれたコクレン、ソウギョ、アオウオと並んで中国では重要な水産物として親しまれているが日本では全くといってよいほど利用されてこなかった。現在は利根川水系でしか繁殖していないが、長寿で全国に流出したものが生き残っている。東京都ですら容易に出会える巨大魚にも関わらず食用としても外来種としても箸にも棒にもかからないという存在感の薄さ。今回はそんなハクレンの実態を追いたい。

今回は東京都と埼玉県の県境である荒川を選んだわけだが、まずハクレンを追うにあたってルールを明確にしておきたい。外来生物法に抵触する魚ではないが利根川水系のハクレンに関しては5月20日~7月19日の産卵期間が禁漁とされている。埼玉県水産研究所に確認すると、利用された時代に禁漁期間設定されたものの忘れ去られてそのままになっているだけだという(笑)。利用もされない外来魚なのに禁漁期間というのも変な話だが、ルールとして残っている以上は守らないと違反になるので釣り場管轄の漁業調整規則に従おう。外来魚が目の敵にされる昨今の風潮の中にありながらこの存在感の無さは、植物プランクトン食性ということで水質浄化に一役買いこそすれ、卵が孵化できる環境が限られるゆえ侵略性も弱く、空いたニッチに滑り込んだだけで在来の生態系にあまり影響がなかった稀なケースゆえかもしれない。


巨大外来種の釣り方

餌釣りと引っ掛け釣りがあり、本場中国では引っ掛けが主流の場所もある。特別な仕掛も不要で、安いルアー竿セットでルアーを投げて巻けば勝手に引っ掛かってくる。食べるのが目的ならば引っ掛けるのが手っ取り早く、ローコストで子どもでも容易に釣れる。

高いルアーは不要で500円以下のバイブレーションで十分。安いルアーはよく鈎が伸ばされるのでリールのドラグだけ調整すればよい。

掛かると1m前後の巨体が左右に走り糸をギチギチと引きずり出しながら竿を絞り込む。柱に巻かれるわけにいかず緊張が走る。ルアーを無くしたくない気持ちは環境にも優しい。掛かると1m前後の巨体が左右に走り糸をギチギチと引きずり出しながら竿を絞り込む。柱に巻かれるわけにいかず緊張が走る。ルアーを無くしたくない気持ちは環境にも優しい。

ありゃりゃ巻かれちゃったよ。しかし最新の糸は強く、柱に1回転半したハクレンを強引に逆回転させた。

観念したハクレンをランディング。当たり前だけど1mの魚が入る網は予め用意しておこう。何故か小さな魚は殆ど釣れない。

一瞬で90㎝超え ドーン!!!

誰でも釣れる巨大外来種 ハクレン

愛嬌あるともいえるが幸薄そうという見方もできる、どことなく間の抜けた顔。そして残念なことにアッサリ死ぬ。

これが生体浄水器ハクレンの口。プランクトン専食に進化したとはいえ濁った水を濾しているだけでここまで育つのだから凄い。

解体して食材としての可能性を探る
巨大魚の実態

本当に役立たずなのか?旨いのか不味いのかどっちなんだい!

我が国では比較的楽に美味しくできないとアッサリと無能の烙印を押す傾向がしばしば観測されている。食べられたくない生物にとってはしめしめといったところだろうが、残念なことに私は噂より舌を信じたい。わざわざ海を越えさせただけの実力があると考えるのが産業外来生物であった者へのせめてもの姿勢だ。とはいえハクレンはキッチンでどうにかできる家庭が少なくドン引きされることも考えられるが、これがマグロやクエであれば多くの場合は掌返しなのであるから、口にせずして招かれざる客扱いは避けたいもだ。

中国では5つ星レストランでも扱われる食用魚なので期待が高まるも、解体を進めると意図せず期待が萎んでいくのがわかる。思えば海でも川でも在日外国人が喜んで漁する光景にしばしば遭遇するのだが、不思議にハクレンはそういうことがなかった。偏見のない彼らは美味しいものに素直で貪欲なのだが、こんなに簡単に釣れる大きなハクレンをスルーするのは一体何故だろうか。

調理が進むに従い、ゆるキャラのような顔に似つかわしくないえげつない狂気が溢れ出し、納得させられることになるのだった。

美味しいからなのか日本の尾頭付きのような意味合いがあるのか、本場の料理では何故かハクレンの頭が多用されるので当然調理していく。大きすぎるので兜割りに。

うっかり瀕死にさせてしまう数が増えると、いとも簡単にご家庭の浴室を地獄絵図に変えることができます。現実逃避したくなる気持ちを抑えて勢いでやっていくことが重要。

さばき方は普通の魚と同様だが身が柔らかく心許ない。その上、Y字の巨大な小骨がビッシリと入っており難易度が見えてくる。小型なら鱗をとってブツ切りもありなのだが。

思いのほか見た目は上々 ハクレンの肉質

脂の乗った白身とサシの入った牛肉っぽくも見える鮮やかな血合い肉。コントラストは悪くないのだが現場はドブの空気に包まれる世紀末キッチン。明らかに切り身から拡散されるその臭気は雨上がりの大地の香りともいわれるゲオスミンに由来するものだが、さすが生体濾過装置だけあって濃縮っぷりが半端ではなく下水の申し子との戦いだ。

見た目だけは悪くないんだ。スーパーに売られていたら買ってしまいそうになるだろう。だがこれは開封した瞬間に捨てられる悲しい光景が脳裏に浮かび涙が止まらない。

霞ヶ浦では刺身で興ずることもあると聞くが、その気持ちがわかる美味しそうな見た目ではある。だが臭い。荒川産をナメてはいけない。

頭も食べるので見かけの歩留まりなど何の解決にもならない。念入りに湯引きしていくが気休めか? 巨大なプルプルは何なのだ!

頭が巨大なので意外に歩留まりが悪くも感じる。普通なら残念に思うところだが光明と捉えたくなるほど不安が募ってくる不思議。

巨大な浮袋は完全にあれだ。靴の中に入っている型崩れ防止の黒いやつの名前を僕はまだ知らない。比較的ニオイは薄く食べ易い。