【vol.67】酷道256号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

地図にトラップあり
最大級に騙された酷道
岐阜県岐阜市〜長野県飯田市

この日、私は酷道152号を堪能していた。静岡県浜松市から北上し、長野県飯田市に入る頃には日が傾いていた。このままでは真っ暗になってしまう。いい抜け道はないかと、スマホの地図アプリを眺めていた。

飯田市上村で国道152号から県道を経由し、国道256号を走れば飯田インターから高速に乗ることができる。しかし、その道順で進んでみたところ国道256号に入れない。左折する道がないのだ。そんなバカな……スマホの地図を拡大すると、県道と国道256号の間に、わずかにすき間が見えてきた。道路が繋がっていない。この後、大きく迂回して半泣きで家路に着いた。

後日調べてみると、国道256号と県道との間には12キロもの分断区間があることが分かった。その12キロ間は登山道となっており、登山道が国道として地図アプリに表示されていた(現在は改善されている)。いずれにしても、車で通り抜けることなど不可能だった。

1週間後、私はリベンジすべく、再び飯田を目指した。岐阜市街を出発し、国道256号をなぞりながら下呂市、白川町へと進む。東白川村にかけて酷道区間があるが、距離は短い。飯田に着くと、食料と飲料を買い込んだ。

三遠南信自動車道を過ぎると、センターラインが消えた。山に近づくと一段と険しさが増し、本格的な酷道と化した。これだけでも十分に楽しめるレベルだ。

目の前に酷道マニアの宿敵・ゲートが現れた。しかし、これは獣害防止用で、ゲートを自分の手で開けることができる。ゲートの先は未舗装路となり、徐々に路面の凹凸が激しくなる。限界地点に車を停め、ここからは徒歩で小川路峠を目指す。

国道はすぐに登山道の様相となった。道幅は、最も狭い箇所では靴の幅しかなく、ここが国道と言われても信じられないだろう。

このルートは、古来からの秋葉街道を踏襲しており、一定の間隔で観音様が鎮座している。今向かっている小川路峠は標高1642メートルもあり、秋葉街道全体をみても最大の難所だった。

延々と急な上り勾配が連続し、体力を奪われる。足を踏み外すと危険な個所も多く、気が抜けない。休み休み歩いても汗が噴き出し、次第に休憩のペースが早くなった。立ち止まり、リュックからお茶を取り出そうとしたが、お茶がない。買ったお茶を車に忘れてきたらしい。ぬるくなった飲みかけのカフェオレが、唯一の飲料となった。

歩き始めて2時間半、ようやく小川路峠に到着した。飯田方面の眺望がすばらしい。何よりも、到着しただけで達成感がハンパない。小川路峠は分断区間のほぼ中央に位置するため、この先にも同じ距離が待っている。残り少ないカフェオレをチビチビ飲みながら、峠を下る。酷道が好きだから探索しているが、状況まで酷道になるのは望んでいない。

分断区間が近づいてくると、本格的な酷道が待っていた。

目指していた小川路峠に到着! 

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/