【vol.65】第33回 伝統保存食入門

マリネド・ローストビーフ

ハムと同様、冷たくてもおいしい肉料理。イギリスではピクニック食材の典型。そのままでも、サンドイッチにしてもおいしいローストビーフだが、タレに漬け込むことで保存期間を格段にアップできる。今回はその和風バージョンを紹介しよう。

別名「牛たたき漬け」

今回は釣りの取材でイギリスへ行った時に教わった保存食のジャパニーズアレンジだ。「イギリスでうまいものを食べたかったら朝昼晩とも朝食を食え」とか言われるほど、うまいものがないとバカにされるイギリス料理だが、ローストビーフは例外だ。「ビーフィーター(ビーフ・イーター)」という名前のジンがあるくらいイギリスでは牛をよく食べるのだが、ローストビーフは厚切りにして軽く温めステーキ風にしてもおいしいし(オーストラリアの人気ステーキはコレ)、薄切りや細切りにしてサンドイッチやサラダの具にしても、とてもおいしい。

マリネド・ローストビーフはウスターソースを酢で伸ばし、薄切りにしたタマネギやハーブなどを加えて作ったタレにローストビーフを漬け込んで作る保存食(パブなどでローストビーフが余った時に作る)だが、タレに漬け込むことで味付けされるだけでなく、空気を遮断することで半生肉の保存性を格段に高めている。出されて「へえ、なかなかうまいじゃん」と思ったのだが、その時すでに「これ、醤油ベースのタレで作ったらもっとうまいハズ」と思い、日本に帰ってから作ってみたらその通りだった。簡単に言ってしまうと薬味がたっぷり入ったポン酢のタレにローストビーフを漬け込むというものである。「カツオの土佐作りの牛肉保存食バージョン」または「牛たたき漬け」と言ってもいいだろう。

【材料】
牛赤身肉500~600g、醤油100~150cc、リンゴ酢200cc、みりん200cc、砂糖大さじ2、ブラックペッパー粗挽き大さじ2、青ネギ1束、ショウガ中1個、ニンニク1かけ、ミョウガ2~3本、サラダオイル少々

【作り方】
❶赤身肉の塊の全面に粗挽きのブラックペッパーを擦り込む。
❷弱火で温めたフライパンに薄く油をひき、①の表面を時間をかけて焼く。
❸焼け具合をチェックするのは、金串を肉の中心部まで刺し込んで5秒待ち、引き抜いて下唇に当てて温度を調べるという手法を取る。冷たかったらまだ。ほんのり温かかったらOKだ。熱い状態では焼き過ぎなので注意。ローストビーフではなく、ただのデカイ焼肉の塊になってしまう。
❹アルミホイルで包んで冷ます。
❺醤油、酢、みりん、砂糖を混ぜ合わせ、火にかけて1度沸騰させる。
❻常温になるまで冷ます。
❼青ネギは小口切りに、ミョウガはみじん切りに、ショウガとニンニクはすり下ろす。
❽冷めた⑥に⑦の薬味を混ぜ、保存容器に入れ、冷ましたローストビーフを漬け込む。
❾1~2日漬け込んでできあがり。
❿ローストビーフをタレから引き上げ、スライスして薬味を添え、混ぜ合わせながら食べる。
⓫ローストビーフの残りは再びタレに漬け込んでおくと1週間程度は保存がきく。容器からできる限り空気を抜くのがポイント。
⓬漬けダレに入れる薬味は、その時にある大葉やシソの実など好みのものに換えても構わないし、酢もお好みのものを使ったりレモン果汁を足したりしてもいい。

ローストビーフに適した肉は「柔らかな赤身肉の塊」なのだが、スーパーでは赤身肉はほぼ薄切りしか置いていない。肉屋さんと仲良くなっておかないと、この手の料理は思いついてすぐ作るのはなかなか難しい。

ローストビーフをフライパンで作る時には弱火で時間をかけてじっくり焼くこと。肉厚の鋳鉄でできたフライパン「スキレット」なら蓄熱性が高く、温度変化も少なく最適。

漬け込みや保存のためには、酸化を防ぐために容器内の空気をできる限り抜くのが大切だ。そのためには固形容器よりも、ジップロックなどの密閉式ポリ袋が向いている。

写真・文 鈴木アキラ

1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。