【vol.65】酷道378号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

夏に最適!
海沿いの酷道
愛媛県伊予市〜愛媛県宇和島市

日本で最高峰の道路“国道”であるにも関わらず状態が酷い道路のことを“酷道”と呼んでいる。道路は、道幅が広くて自動車も歩行者も通りやすいほうがいいに決まっている。それなのに、酷道と呼ばれるような国道が多数存在している。

自動車が道路交通の主役となる前は、すべての道がいわば酷道だった。自動車が増えるにつれて、立派な道路が整備されてきた。酷道というのは、時代に取り残されてきた道路ともいえるだろう。

今回ご紹介する国道378号は、愛媛県伊予市を起点とし、八幡浜市を経て宇和島市が終点となる。愛媛県内で完結する、延長120キロほどの比較的短い国道だ。その特徴は、なんといってもずっと海沿いを走ることだ。八幡浜市の佐田岬半島の付け根付近を除いて、ほとんどの区間が海岸線に沿うようにして伸びている。

早速、伊予市の起点付近から酷道378号の旅をスタートする。しばらくはJR予讃線と並行し、2車線の快走路が続く。この区間も以前は酷道だったが、海を埋め立てて立派な道路が造られた。

並行するJR予讃線には、かつて日本一海に近い駅と言われていた下灘駅がある。知る人ぞ知る無人駅だったが、近年はインスタ映えするということで一躍人気スポットになった。酷道を解消する際、海を埋め立てて国道を造ったため、道幅の分だけ海が遠くなり、下灘駅は日本一海に近い駅ではなくなってしまった。

そんな酷道の歴史とともにある下灘駅に立ち寄ってみると、若者や家族連れでごった返していた。ホームのベンチは映える写真を撮りたい人で順番待ちの列ができていた。駅前には映えるドリンクを販売するショップまで開店している。一人旅でふらっと訪れ、感慨にふけるという雰囲気は皆無だった。

国道に戻り先へ進む。内陸部となる八幡浜市の市街地を過ぎ、再び海が見えてくると、ようやく酷道区間が始まる。センターラインのない細い道、すぐ横は海、背後はみかん畑、空は晴れ。

漁港と段々畑の組み合わせは、いかにも愛媛らしい風景といえるだろう。そして、そこに伸びているのは、ただの細い道ではない。国道だ。最高の酷道ドライブになる予感しかしない。

酷道は海にベッタリと沿うようにして伸びている。港町を過ぎると、港でも砂浜でもない海沿いを、ひたすら走る。時おり道はアップダウンし、切り立った崖が現れたり、海を上から見下ろしたりもする。道は時々表情を変えるので、走っていて飽きることはない。海沿いの酷道を走ること2時間、宇和島の市街地が近づいてきたところで、酷道の旅は終わった。

海は夏だけのものではないが、夏の海は別格なのも、また事実だ。海を眺めながら、時代に取り残された酷道を走り、過去に想いを馳せる。夏の思い出作りに、海沿いの酷道ドライブはいかがだろうか。

酷道が国道になるまでは海に最も近い駅だった下灘駅。かつては静かな無人駅だったが、多くの人でごった返していた。

これで右側が谷だったらよくある山の酷道だが、海沿いの酷道は実は結構珍しい。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/