【vol.59】にわとりのいる暮らし No.38

「オレはコフキで暮らす。あなたたちはここ(横浜)で電気祭りして暮らしてくれ」

2年前、夫にこう言い渡されたときはショックだった。消費生活に頼り、生命体として情けない暮らしをしていることは事実だが、家族にそんな言い方をしなくてもいいのにな、と思った。私の立場からしてみると、怒りと不安の混ぜこぜ状態で始まった、夫の二拠点生活だった。

友人に愚痴ると、「文祥さん、夢を叶えてアルムのおじいさんみたいになっちゃったんだね」と笑われた。当時プー太郎だった息子の玄次郎が、ヤギを連れている図を想像すると、そんな人生も悪くないなと思った。そのうちシュウまで「将来、コフキで牧場をやろうかな」などと言う。若い世代の可能性という視点で考えると、希望が見えてきた。

文祥に「1人で暮らすコフキは、どう」と聞くと、「むなしい」と返ってきた。父ちゃんは父ちゃんで、なかなか大変そうだね、と子供らと話す。

ようやく部活が休みに入った高校生の娘を、父親のもとへ連れて行った。幼い時からアルプスの少女ハイジのように自然が大好きな彼女だが、学校の部活が忙しすぎて、コフキに行くのは今回が2回目である。

食事を作るためには火が必要で、火を熾すためには薪を拾わなくてはならない。生きるための仕事はずっとつながっている。わたしもシュウも、山にいる間はただのヒトとなり、煙とホコリにまみれて働き、夜はよく眠った。夜中に外に出ると、頭上に天の川が流れていた。

──と、自宅に戻り、この原稿を書いていると、何やらニワトリ小屋が大騒ぎ。

「卵、産んだんじゃない?」と玄次郎が言う。行ってみると、小屋の床に小さな卵が転がっていた。はじめてのお産、シーシーは相当お尻が痛かったのではないだろうか。

服部家の生き物
「ナツ」 ♀ オヤブンと一緒にコフキに行ったっきり。
「ヤマト」 ♀ やばい、体重がまた増えている。
「サンちゃん」 ♂ 立派なオンドリになりました。
「キー丸」 ♂ サンちゃんに突かれながらもマイペース。
「シーシー」 ♀ 急にメンドリらしい貫禄が。

服部家の人々
「ブンショウ」 ♂ コフキで新たに手に入れた半蔵という家屋の修繕に明け暮れています。
「コユキ」 ♀ シーシーが卵を孵す日が楽しみ。

「ショウタロウ」♂ 就職したくないよーー!
「ゲンジロウ」♂ この夏、高認試験を受けました。
「シュウ」♀ 合宿で嬬恋村に行き、キャベツ畑におどろく。

服部小雪

はっとりこゆき◎イラストレーター。美大時代に山の魅力に出会って以来、自然に近い暮らしに憧れる。さまざまな種類の鶏と、ヤギを飼うのが夢。夫の服部文祥と子どもたちとの暮らしを綴った『はっとりさんちの狩猟な毎日』(河出書房新社)が発売中。