【vol.57】山菜をいただきま~す

栃木県に住んで6年目、まだまだ探検中ではあるが、やっと周りの環境がわかってきた。東京に住んでいた頃は、車で郊外に出かけフィールドを散策し、何年もかけて広い範囲でどこに何があるのかマスターしていった。その経験で見たい、採りたいものは身近なもので判断して出かけている。例えば東京で梅が咲く頃、東京郊外ではトウキョウサンショウウオの産卵が始まるなど、植物や生き物のターゲットの時期を身近な植物などで判断している。栃木に来てその季節感がようやくわかってきた。今年の春は去年と同様平均より早く訪れた。俺流でいうと、春の訪れはアカガエルの産卵が始まり、トウキョウサンショウウオの産卵、桜が咲き、ヒキガエルの産卵とつづきカタクリが咲く。その頃タラの芽が食べ頃の芽を出し、山菜採りの短い時期に入る。東京にいた頃と微妙に違うが、流石に里山に住んでいると敏感に反応する。旬の食べ物はとりあえず恵としていただいているからだ。季節を感じて食べるくらいで大量には採ってこない。

今回は王道ではあるが山菜をいただきま〜す。俺流で言うと摘んで食べる植物は、山菜と土手菜で分けている。土手菜は文字通り土手や田んぼなどで育つ草で、カンゾウやフキ、ヨモギなど。山菜は主に山で育つ木の芽である。山菜はライバルが多く「おっ!カタクリが咲く頃だなそろそろタラの芽か」と思い山に散策に出かけるがライバルに採られていることが多い。きっとお互い様なのでそこは目くじらは立てない。タラの芽を採りに行くときは他に、コゴミ(クサソテツ)とコシアブラも摘んで帰るが、山菜などは人の山に入って勝手に採っているので本来は泥棒。決していいことではないが、明らかに放置してる場所や河川敷などで摘む。山菜はファンが多く、そのため山の持ち主は荒らされたりされて困っている。ロープを張り山菜摘み禁止などの看板を立てるところもある。よく考えれば当然で、自分の庭に知らない人がずけずけ入り込み植物を摘んでいくようなものだから怒るのも無理はない。そこは持ち主がいれば断りを入れるなどの配慮が必要だ。

山が芽吹きでパステル調のいろんな緑に色づき始めた晴れた日に、自分のお気に入りの山へ山菜を摘みに出かけた。タラはトゲのある幹で初心者でも覚えやすい。低い木は摘みやすいが高く育っているものは大抵諦める。枝先に出る大きな芽は摘んでも2番芽が脇から出てくる。しかし、2番芽を全体で採ってしまうとその木は枯れてしまうと昔おばあちゃんに聞いたことがある。本当のところはわからないが、なんとなく木の芽を摘むときはそこに注意する習慣がついた。

コシアブラは木が白っぽく、芽にも特徴があり見慣れるとわかりやすい。最近どこの山に入ってもイノシシの掘り返しが多く、特に私の通う栃木県の芳賀郡は手を入れていない山や休耕田・空き地で多くみられる。立派なうんこがあちこちに散らばっている。

さらに、川沿いや針葉樹林の日陰などの環境でコゴミを採集。これは木ではなくシダ植物の仲間で、芽が渦を巻いた状態で摘む。今回選んだ3種類はアクは無く食べやすい山菜で「山菜はちょっと苦手」という人にもお勧めなので挑戦してみてほしい。また、採取に出かけるときはトラブルには十分気をつけて気持ちよく帰ってきてほしいものだ。

山に出かけて見つけたら誰でも絶対手が出る山菜の帝王。タラノキ・コシアブラ・クサソテツ。回転寿司で思いついた絶対回らない贅沢な3種盛りをいただきま~す。文句なしの美味しさ間違いなし。

装備はほとんどないが、長靴ぐらいは用意する。山菜を摘むのは素手で十分。大量に採るわけでもないので特に入れ物はいらない。新緑を味わいながらターゲットを探す。季節を味わう程度の量でいい。

桜が終わると同時に里山では色とりどりの芽吹きが始まる。どんなに鈍感な人でも、この芽吹きを見たら感動する。毎年見ているが毎年ワクワクする季節である。誰でも出かけたくなる風景だ。

採る

タラの芽は芽の部分と木の部分の境を折るように摘む。ポキッという感じだ。摘んでしまっても摘んだ脇から芽を出し、少し小さくなるがちゃんと成長する。

コゴミは渦巻き状に芽を出す。柔らかいうちに摘むので渦状の新芽の状態を探す。多少伸びていても食べられる。1株で数本芽が出る。写真は2株分。

山菜の帝王

 

コシアブラ

木が白っぽく、まっすぐに枝が伸び、芽は手のひらのような葉が数本伸びる。香りが良く、アクが強いので天ぷらで香りを楽しみながら食べる。

タラノキ

コシアブラと同じウコギ科の落葉低木。枝分かれが少なく樹皮に棘があるので見分けやすい。日当たりのいい山の林道脇や空き地に生える。

クサソテツ

コゴミは山菜名で和名はクサソテツ。シダ類植物だ。林などの木の隙間や湿ったところに生える。アクがなく茹でてそのまま食べられる。

コシアブラもタラ同様枝先の新芽を折るように摘む。タラノキにも言えることだが、摘んだ後から生える2番芽は採らない。枯れてしまうことがあるからだ。

山菜を調理する!

 

じゃ~ん! なんと贅沢な食材だ。道の駅や大手スーパーなどでも商品として並ぶ山菜の王道中の王道。これを贅沢にお寿司にする。

ー 揚げる ー

タラの芽

やや硬いガクのような皮を取り除く。芽を包むように出ているので全部は取らず、あくまでも硬いガクのみ。厚みのある芽は縦に半分に切る。

天ぷら粉を全体につけ180度の油で表裏返しながら揚げる。揚げたてが美味いのでつまみ食いはあり。料理人の特権だ。

コシアブラ

タラの芽同様に、芽を包むように出ているガクを取り除くが、最後まで取ると葉がばらけてしまうので最後の1枚は残す。

全体が揚がりやすくするように、平たくなるように重なり合う葉を広げる。天ぷら粉は片面だけつけ180度の油で1つずつ揚げる。

ー 茹でる ー

コゴミ

アクのないコゴミは流し水でゴミなどを流して、沸騰した熱湯に入れる。すぐに色が変わるのであまり柔らかくならないうちに上げる。

熱湯からあげたら水で冷やす。ここでも特権つまみ食い。塩・マヨネーズでも美味しい。自分で料理するときはここで他の食べ方も考える。

ー 握る ー

炊きたてのご飯をボールなどに移し、すし酢をかけて混ぜる。水で手を濡らしご飯を適量掴み、寿司のシャリを形取る。自分で食べるので多くても良い。

シャリの上に具をのせて細く切った海苔を巻く。変化をつけるためにコゴミは軍艦巻きにしてみた。コゴミの上にはカツオ節をさらっとふりかけてみた。

3種盛り完成

左からタラの芽、コゴミ、コシアブラ。お腹いっぱい食べるのでは無くあくまでも春を食べるイメージでいただく。塩で食べるのだが、コゴミはわさび醤油を少しかけて食べる。味は言うまでも無く激ウマでした。

日本野生生物研究所 奥山英治

主にテレビ番組やアウトドア雑誌や本などを中心に、自然遊びや生き物の監修などで活躍中。「触らないと何もわからない」をモットーに子供向けの自然観察会も行っている。著書に『虫と遊ぶ12か月』(デコ刊)などがある。