【vol.57】酷道494号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

まさかのサイクリングロード
自転車にとっても酷道
高知県須崎市〜愛媛県東温市

国道でありながら整備が進まない酷道。酷道は、都市部にはほとんどなく、地域による偏りも見受けられる。今回ご紹介するのは、酷道のメッカと言っても過言ではない、四国の酷道だ。

酷道494号は、瀬戸内の愛媛県松山市を起点とし、太平洋側の高知県須崎市へと、四国を縦断している。延長は114㎞で、その多くが山間部だ。急峻な地形だらけの四国だが、東西南北に多くの国道が伸びている。四国中央に鎮座する四国山地が、酷道を多発させる大きな要因の一つだ。

高知県側から北上すると、しばらくは2車線の快走路が続く。仁淀川町の池川集落から本格的な酷道がはじまる。集落内では、両サイドに昔ながらの商店が立ち並び、道幅が狭いため対向車と行き違うことができない。

集落を過ぎると、いきなり山道の様相を呈する。ガードレールはあるが、とにかく道幅が狭い。道路両サイドの余裕はわずかで、自動車どころか、バイクや自転車とのすれ違いが困難な個所もあった。

峠の頂上にある境野隧道を抜けると、愛媛県に入る。久万高原町まで下りると市街地となり、久々にセンターラインが見られる。渋草の市街地には、歴史を感じさせる旅館跡や、四国最後の秘境を名乗る大成への入り口があり、興味深い。興味深すぎて後日再び訪れたのだが、それはまた別の機会にでもご紹介したい。

現時点で、距離でいえば3分の2ほどは走ってきたが、この先には強敵・黒森峠が待ち構えている。細い道は左右に蛇行を繰り返しながら、グングン標高を上げてゆく。

この時、ふと路肩の青いラインが気になった。道路脇の白いラインと並行するように、青色のラインが一部分だけ引かれていた。車を降りて確かめてみると、青色のライン上には、自転車の絵とともに「黒森峠10㎞」と書かれていた。まさかのサイクリングロードだ。

車一台通行するのに精いっぱいな酷道に、サイクリングロードを設けるとは。自転車にとっては、自動車以上に過酷な道のりだろう。しかも、急勾配と急カーブが連続する狭隘路で、車にとっても非常に危ない。幸い、これまで一台も自転車と遭遇しなかったが、カーブでは対向自転車に注意し、これまで以上に減速するようにした。

酷道を走りはじめて2時間ほどで、黒森峠に到着した。眺めはよくないが、空気は清々しい。自転車向けの案内板があり、この先、土小屋まで44㎞と書かれている。自転車は本当に過酷だ。

峠を下りきると、酷道は終了する。結局、自転車を見ることはなかった。「そりゃそうだよな」と思った矢先、一台の自転車が黒森峠に向かって上って行った。既に日は傾きはじめている。自転車乗りの方は、気合が違うのだろうか。車の中から、サイクリストの安全を静かに祈った。

サイクリングロードであることを示すサイン。自転車でここを走るのは過酷だが、自動車も気を付けないといけない。

標高985mの黒森峠に到着。景色はよくなかった。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/