【vol.56】第24回 伝統保存食入門

鯛そぼろ

雛祭りが近づくと「桜でんぶ」を思い出す。ちらし寿司に使われているピンクのあれだ。食紅で着色しているのを知った時は、子供ながらに、ちょっと悲しかった。今回の「鯛そぼろ」は「大人のでんぶ」だ。噛み締めるほどに味が出てくる。見た目の派手さではなく、味で勝負なのだ。

小骨&ウロコとの 果てしなき戦い

僕は自他ともに認める「魚喰い」で、小骨の多い煮魚や焼き魚を箸で細かくつつきながら食べ切るのが大好きだ。それが魚に対する最低限の礼儀だと思っているから、食べ方の下手なヤツを見ると「だっせえ!」と思ってしまう。そんな僕でも「いやあ、これは大変だ」と思ってしまうのが今回の料理だ。なので、面倒なのが嫌いな人にはオススメしない。

でも、プラモデルなら細かいパーツを組むのが好きな人、またはピカールで時間をかけて金属磨きをするのが好きな人、つまり永遠にも続くような細かい作業を1個1個潰して完成に向かうのが好きな人には、このコロナのおかげで時間がたっぷりある時には、絶好の時間潰しになること間違いない。

なぜなら今回のような鯛のアラを使った料理は、小骨とウロコとの果てしなき戦いとなるからだ。特にウロコは、より分けてもより分けても出てくる。SEARCH&DESTROY、まさに殲滅戦と言えよう。

これが面倒という人は刺身のサクを買ってくれば、この問題は一気に解決されるのだが、それならわざわざ「そぼろ」など作らず、刺身のまま食べた方がよっぽどいい。

ちょっと自虐的な料理と言えなくもないが、その手間をかけた分の成果はきちんと味わえる。噛み締めるほどに、鯛の身の感触と味の奥行きの深さが口の中に広がってくる。

【材料】鯛アラ1パック(約500g相当、骨を除いた身だけだと約300g)、日本酒大さじ3、みりん大さじ3、醤油大さじ3、砂糖大さじ1~3(なくても可)

【作り方】
❶アラは血の塊などが付いていることが多いので、小さなスプーンなどでこれをこそぎ落とす。血合いも取り除く。これをしないと仕上がりの色味が悪くなる。
❷フタ付きのフライパンを用意する。フライパンに日本酒とアラがヒタヒタになるくらいまで水を入れて、フタをして中火で熱する。
❸身に火が通って白っぽくなったら火を止めて、まずはウロコの付いた皮を取り去る。
❹骨から身をこそぐようにして外し、骨は捨てる。小骨も丁寧に取る。
❺再び中火で炒めて水気を飛ばしながら身をほぐしつつ、小骨とウロコを取っていく。
❻ポイント写真(左下)にもあるように、細かなウロコがフライパンに張り付くのでこれを丁寧に取る。食べていて口の中に感じるウロコの感触は最低だ。
❼みりん、醤油を加え、さらに炒めつつ身をほぐす。
❽あらかた水分が飛んだら、甘いのが好きな人は味見しながら砂糖を足す。砂糖を足してからは焦げ付きやすくなるので火は弱火にすること。
❾水分が飛んだら薄く広げて粗熱を取る。水分をできるだけ残さないことが長期保存につながる。

大振りの鯛のアラ、丸々1尾分が500円弱で買えるとなれば、買わずにはいられない。この手の品に手を出す人が少ないのは、調理方法を知らないからなのだろう。「もっ鯛ない」としかいうほかない(失礼!)。

茹で上がったら骨から身をこそぎ落としていく。ウロコの付いた皮は身をほぐし始める前に取り除いておくこと。最初の段階でできる限りウロコ取りをするのが肝心。

調味料を入れてから水分を飛ばしつつ身をほぐしていくが、ここでもウロコが次々と発見される。これを諦めずに丁寧に取り除いていくのが、今回の料理の最重要課題。

写真・文 鈴木アキラ

1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。