【vol.54】第22回 伝統保存食入門

ペット可のシンプルジャーキー

ジャーキーといえば、濃い味付けがされたテング印のビーフジャーキーを思い出す人も多いかもしれない。しかし、今回紹介するのは、その正反対の塩を含めた添加物一切なしのペットもOKのシンプルな干し肉。その実力と奥深さを紹介しよう。

添加物一切なしのジャーキー

前回「ゴーヤーの旨煮」で紹介した田原精肉店だが「これ、ワンちゃんのおやつとして作ったものなんだけど食べてみて。結構売れてるんだ」とジャーキーのサンプルをいただいた。今のペットは贅沢なもの食べてるなあ、昔は冷めたご飯に味噌汁の残りをかけて食べさせていたけどなあ、などと考えながら食べてみたら、これが激ウマ。牛も豚も鶏も、それぞれの肉の味がしっかりしつつ、余計な味が一切しないのだ。味付きのものは何度も作っているが、これははじめてだ。しかも、家庭用のフードドライヤーでも作れるという。

犬猫に塩分を与えてはいけないことは今や常識中の常識。味噌汁かけご飯など、実は食べさせてはいけないものの典型。だからこのジャーキーは塩も香辛料も一切使わず、ただ肉を乾燥させただけのものだ。でも、それがここまで美味いとは! しかもメーカー品のような添加物もゼロ。

人用のジャーキーは塩も香辛料もバッチリ効かせて作る。しかしそれは現在のように密閉容器、乾燥剤、脱酸素剤などがない時代に考案されたものだからであり、しっかり乾燥させて乾燥剤と一緒に密閉容器で保存するなら、単純に干しただけの肉でも十分保存は効くし、キャンプや登山などにも活用できる。ペットだけでなく、人間の健康のためにもいい。近いうちに、シカやイノシシでも作ってみようと思っている。

【材料】牛肉(モモ肉赤身)500g、豚肉(モモ肉)500g、鶏肉(ササミ、または胸肉)500g※鶏肉だけは安いブロイラーでは味が出ないので地鶏がオススメと田原精肉店のケンジ店長は言う。田原精肉店では日南どりを使っているとのこと。

【作り方】
❶牛肉、豚肉は脂身のない塊を購入し、しゃぶしゃぶ用くらいの極薄にスライスする。購入した店でスライサーで切ってもらうのが楽。
❷鶏肉は機械ではスライスできないので自分で作業をする。胸肉は皮を取り去って、肉の繊維を断ち切る方向に薄くスライスする。
❸フードドライヤーの網に重ならないようにしてスライスした肉を並べる。家庭用のフードドライヤーは6~7段の棚が重なるようになっていて、肉なら約1.5kg程度が乗せられる。
❹温度を最高温度(家庭用ならたいてい70度C)に設定。
❺タイマーの時間設定は20~24時間。途中、乾燥の度合いを見ながら棚の上下を入れ替える。
❻乾燥すると元の重さの15%程度になる。肉の重さのほとんどが水分であることがよく分かる。
❼ジップロックなどの密閉容器に乾燥剤を一緒に入れて保管する。常温保存可能。

ジャーキーを作る肉はできる限り脂肪分の少ないものを選ぶこと。牛なら赤身、豚ならモモ肉、鶏は胸肉。脂肪は水分が抜けづらく、変質しやすい。脂肪分が多いとペットは消化できずにお腹をこわすこともある。

鶏肉はスライサーでは切れないので包丁作業となる。このように刃が透けて見えるくらいに薄く切るのがポイント。当然、包丁はしっかり研いでおくことが大切。

乾燥途中のチキンジャーキー。鶏肉は水分が多いので、しっかり乾燥させることが肝心。重ならないように並べ、棚の上下を入れ替えながら、最低20時間は乾燥させる。

写真・文 鈴木アキラ

1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。