【vol.40】にわとりのいる暮らし No.21

起死回生を期待した孵卵器発動は完全な空振りに終わった。まともなタマゴはすべて無精卵だった。もっともタマゴを産むヨリメンは、キングに身体を許していないのである。我が家のロードアイランドレッドはいよいよ絶滅を待つばかりとなった。
 
さっさと廃鶏にして、次の群れを入れれたほうがいいのだろう……という言い回しをしたときに「いい」のはなんなのか。いいのは単なる効率である。
 
命は無意識のうちに効率を求めている。できるだけ少ない労力で、多くの成果を得た方が、生き残る確率が高くなり、繁殖して遺伝子を残す可能性もあがるためである。人間はそれをやりすぎて、どんどん忙しくなり、繁栄はしたものの、増えすぎて困っている。
 
ぼちぼちでやめておくというのはなかなか難しい。効率を求めるマシーンになってしまったら、自分の存在がむなしくなる。ニワトリの場合、効率の逆になるのは「情」というヤツである。積み重ねてきた時間とそこで育んできた感情もまた、現実に存在する。
 
長年付き合ってきたので、ニワトリは(効率を求めて)殺されることもなく、今日も庭を自由に歩いている。
 
今後は烏骨鶏の有精卵を手に入れて、孵卵器に入れてみるつもりである。昨年全滅したミツバチも別の群れがやってきて、元気に飛び回っている。
「にわとりのいる暮らし」はニワトリがゆっくり全滅して行く今回でいったんひと区切りとし、ここまでの内容に大幅加筆したものが河出書房新社から単行本になる予定だ。ただ連載は、次回から少し趣向を変えて続きます。

服部家の鶏
「キング」 ♂ まだ朝は元気に鳴いています。
「チビ」 ♀ ちょっと怖いお局様。

「プープ」 ♀ 人間を攻撃してくる&産んだ卵を喰う問題児。
「よりめん」 ♀ 一番若く、有精卵を産んでいると思ったがダメでした。

服部家の人々
「ブンショウ」 ♂ 三島賞もらえませんでした。
「コユキ」 ♀ 本連載の単行本化で奮闘中。

「ショウタロウ」♂ 大手予備校でインテリ予備軍目指しています。
「ゲンジロウ」♂ とにかく修行中のいい身分。
「シュウ」♀ 後輩が入部し陸部がいそがしくなりました。

「ナツ」♀ 最近なかなか山に行けず退屈しています。
「ヤマト」♀ スズメ、ネズミ、トカゲなどの狩りに忙しいが、おデブ。