【vol.52】にわとりのいる暮らし No.31

5月の終わりのおだやかな夕方だった。休校中ということもあって、めずらしく家族全員がそろっている。

「キンちゃんを助けてあげて」と娘が私を呼んだ。行ってみると、傾斜地の段差でバタバタと雄鶏のキングがもがいている。どうした?と抱き上げると、キングは荒い息をしていた。立ち上がれない彼をひとまず小屋の中に運び、乾いた土の上に置いた。転んだにしてはようすがおかしかった。

「おーい、梅、採りに行くぞー」今度は文祥に呼ばれた。ハサミとブルーシートとカゴを持ってお隣のA邸の庭に行く。すでに無人となったA邸は数日後には取り壊すことになっている。実をつけている梅の木を目にしてしまい、私たちはいろいろな意味でそのまま放っていくことはできなかった。

梅の実をカゴに入れていると、猫が叫んだような声が辺りに響いた。続いて羽音。自宅に戻り鶏小屋に走っていく。ダメだったか! キングが小屋の外に倒れてすでに死んでいた。さっき聞いたのは恐ろしい断末魔の叫びだったのだ。身体を持ち上げると、長い首が力なく地面に向かって伸びた。

ついさっきまで餌をつついたり咆哮をあげたりしながら、キングは庭を歩いていた。土がついたままの柔らかな足裏をさすっていると、悲しみよりも畏敬の念が沸いてきた。

翌朝、キングの緑色に光る尾羽を1本切り取り、子供たちとスコップで庭に深い穴を掘り、遺体を埋めた。もう、キングの叫び声の近所迷惑を心配しなくてよいと思うと、急に肩の荷が下りた気がした。

服部家の生き物
「キング」 ♂ オンドリ。享年8歳。
「プープ」 ♀ 最後のメンドリ。4月の終わりに亡くなった。
「ブッダ」 庭で飼っていたミドリガメ。先日文祥に食べられてしまった。
「ナツ」 ♀ 4歳の雑種犬。
「ヤマト」 ♀ 4歳の黒猫。近所のアイドル。

服部家の人々
「ブンショウ」 ♂ デッカいテレビ画面で観る「地球ドラマチック」が面白い。
「コユキ」 ♀ 子供たちのアトリエが再開してホッとしています。

「ショウタロウ」♂ 大学のオンライン授業を受けてます。
「ゲンジロウ」♂ 先日、父と多摩川の源頭へ行きました。
「シュウ」♀ 休校中に「ヒロアカ」にはまりました。