【vol.51】にわとりのいる暮らし No.30

長い休みに入るたびに「なんでうちは家族旅行に行かないの」と言われてきた。「ニワトリの世話はどうするのよ」とごまかしているうちに子供たちは大きくなり、それぞれにやりたいことができ、行動もバラバラになった。今は私が1人で「家族旅行に行きたい」と言っている。「小蕗でいいじゃんか」とブンショウは言う。世の中の状況がガラリと変わった今、人里離れた小蕗の株が急上昇した。

久しぶりに小蕗を訪れると、去年の夏はゴミだらけの廃屋だったのに、部屋にストーブが入り、土間もきれいになってだいぶ快適な家になっていた。シュウは初めて来たにもかかわらず到着すると自分の半纏を着て、ここで生まれ育ったような顔でウロウロしている。

小蕗では時間という概念が薄まって、太陽の動きを感じながら気が向いたことをする感じだ。ナツのために300円で買ったフリスビーを、シュウと投げ合った。スーッと宙を飛ぶピンク色の円盤の動きについ夢中になってしまう。遊んでいる女どもには目もくれずにブンショウは黙々と働き、ナツは山で鹿の匂いを追いかけるのに忙しい。

翌朝早く、みんなで散歩に出た。散歩といっても、ブンショウは猟銃を背負っている。廃道から沢に分け入って倒木をよけながら進むと、突然上流から銃声が響いた。ブンショウに追いつくと、斜面から転がり落ちた鹿が、沢の中に倒れていた。山の上の方で仔鹿がしきりに叫んでいる。撃たれたのは仔鹿の母親だったのだ。仰向けの平たいお腹がナイフで切り開かれると、内臓と一緒に肌色の胎児が現れた。朝の食事の帰りだったのか、鹿の胃袋の中は噛み砕かれた樹皮でパンパンだった。「脂ノリノリのすげぇいいメス」とブンショウが言った。こちらは散歩中にめでたく食糧をゲットしたわけだが、私は仔鹿の鳴き声に気持ちが動転したまま、帰路に着いた。

服部家の鶏
「キング」 ♂ 8歳のオンドリ。元気に雄叫びをあげている。
「チビ」 ♀ 8歳のメンドリ。美しい鶏だったが、老衰で亡くなった。

「プープ」 ♀ キングの娘。人工孵化で小雪が孵した。
「ブッダ」 ミドリガメの子供。ミドリガメを食べる取材の時どさくさで捕獲されはっとり家にやって来た。いつか食われてしまうのか?

服部家の人々
「ブンショウ」 ♂ 猟期が終わって退屈している。いよいよ古民家の修復に集中していく。
「コユキ」 ♀ 庭を耕し、種をまいた。作物が育つのは時間がかかる。

「ショウタロウ」♂ 東京でのアパート暮らしも2年目。
「ゲンジロウ」♂ 積極的ニート生活も3年目。
「シュウ」♀ JK(女子高生)になったのに、学校が始まらない。

「ナツ」♀ 4歳の雑種犬、メス。最近は小蕗と横浜を行ったり来たりしている。
「ヤマト」♀ 4歳のネコ、メス。毎日うちに遊びに来る白いネコに、ものすごく怒っている。