【vol.51】第19回 伝統保存食入門

マグロの佃煮

ない時のための備えとして発達したのが「保存食」であり、佃煮は日本が誇る保存食の典型と言える。おいしい佃煮と白いご飯があるだけで、僕は幸福な気分に浸ることができる。その安心感があるから、今日も笑って暮らしていける気がする。

備えあれば憂いなしの保存食作り

外出自粛要請が出た日の夕方、スーパーに行くと、棚が見事に空っぽになっていた。これはまさしくパニック心理のなせるワザである。不安に駆られた人間は、正常な心理状態ではなくなってしまうのだ。やれやれ、と思いつつ鮮魚コーナーに行くとマグロのアラだけが残っていた。

「アーサの佃煮」の時にも書いたのだが、佃煮は日本の誇る保存食の典型と言ってもいい。醤油と砂糖という保存効果の非常に高い2つの調味料で煮込むことで、食材の保存について最大限の効果を発揮している。マグロの佃煮は最終的にフレーク状になるのでサクを使う必要はない。安く手に入るアラで充分だ。

話は変わるが、欧米のアウトドア用エマージェンシーキットには紅茶のティーバッグが入っていることが多いのだが、これには単純に水分補給と体を温めるという効果だけではなく、火を熾してお茶をいれるという、やり慣れた一連の作業をすることの中で心理的に落ち着きを与え、これからやらなければいけないことを理性的に考えることができる効果を合わせ持っている。 

調理は頭を冷やすのに最適な作業だと言われるのも同じ理由からだ。また、食料の買い占めに走ってしまうのも、ふだんからの備えがないからで、きちんと備えをしておけば不安は最小限に抑えられる。だからこんな今こそ「保存食作り」をするべきなのだ。と、このページの宣伝もしたところで、また次号!

【材料】マグロ(アラ)500g、醤油100~300cc、酒100~300cc、砂糖大さじ3~10、ショウガ大1~2※調味料の量に幅があるのは、どの程度の味付けに仕上げたいかによって異なるため。最小限の量ではあっさりと仕上がるが保存効果はさほど望めない。最大限使うと保存効果の高い、かなり濃い味付けになる。僕はMAX状態にすることが多い。

【作り方】
❶厚手の鍋にマグロのアラと少量の水を入れ、火にかけて蒸し焼き状態にする。
❷マグロに火が通ったら、箸を使って骨と身を分離させていく。アラにヒレなどが入っている場合には付け根部分の小骨も丁寧にとることが肝心。ヒレ付け根部分の身は旨味たっぷりなので、面倒でも骨と一緒に捨てたりしないこと。
❸醤油、酒、砂糖、ショウガのすり下ろしを最初は最低量加えて煮込む。
❹煮込みつつ、身をフレーク状にバラしていく。
❺最低限の味がしみ込んだら鍋の蓋を取り、水分を飛ばしつつさらに煮込む。
❻好みの味になるまで調味料を加え、熱しつつ水分を飛ばし、を繰り返す。
❼水分が減ってきてからは弱火にして、焦げ付きに注意すること。
❽火を止める寸前にさらにショウガのすり下ろしを加えると味が引き締まる。分量外だが、一味唐辛子などを加えるのもいい。
❾煮沸消毒した容器に入れて保管する。

アラは血合いが多いほど濃厚な味になるが、同時に生臭さも強くなる。魚臭いのが嫌いな人は血合いのできるだけ少ないものを選ぶといいだろう。血合いが多いものの時には鮮度のいいものを選ぶこと。

味付けをする前に、蒸し焼き状態にして骨を外しておく作業をしておくと後が楽。ヒレの付け根の小骨が密集している部分は箸先での細かな作業が必要になるが、丁寧に行なうことが肝心。

煮汁が減ってきてからは焦げ付きに注意しながら丁寧にかき混ぜつつ、水分を飛ばしていく。時々味見をして、各調味料を足しながら好みの味に仕上げていく。

写真・文 鈴木アキラ

1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。