【vol.50】酷道170号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

全国に2ヵ所だけ
商店街アーケード酷道
大阪府八尾市〜大阪府東大阪市

日本で最高峰の道“国道”であるにも関わらず、酷い状態のまま放置されている酷道。その王道といえば、やはり細くて曲がりくねった山道だろう。しかし、以前掲載した酷道399号の階段国道や、生活道路として機能している酷道166号といった例もある。今回ご紹介するのは、市街地酷道の雄・170号だ。

国道170号は大阪府を縦断し、高槻市から泉佐野市へと至る。地図で南から追っていくと、八尾市の辺りで2本の国道170号が並行して存在しているのに気づくだろう。

通常、バイパスが完成すると、旧道は国道指定を外される。ところがこの170号は、旧道の大部分が国道指定されたままで、多くの区間で2本の国道170号が並行している。バイパスは幹線道路として、旧道は生活道路としてそれぞれ機能し、2本存在する国道170号は、既に地域に馴染んでいる。また、旧道が府道に格下げとなれば複数の路線名に分かれて複雑化するなどの事情もあって、国道指定が保持されてきた。

旧道を北に向かっていると、いい具合の生活道路が続き、徐々に商店が増えてくる。東大阪市の瓢箪山駅に近づいてくると、ついにアーケードが現れ、自動車進入禁止となってしまう。「ジンジャモール瓢箪山商店街」だ。その先には「サンロード瓢箪山商店街」も構えている。

国道が商店街になっていて車で走れないという状況は、まさに酷道。通行規制は午前7時から午後8時までで、それ以降の夜間のみ通行が許されている。こうした商店街酷道は、長崎市の国道324号〝浜町アーケード〟と、ここ170号の2ヵ所しかない。

午後7時、車を駐車場に入れて、国道上の商店街を歩いてみた。商店街は多くの人で賑わっていて、車は走れそうにない。2つの商店街の間に、踏切があった。近くには近畿日本鉄道の瓢箪山駅もあり、遮断機が下りると短時間で多くの人や自転車が滞留していく。

名前のとおり、瓢箪をあしらったデザインがあちらこちらに見受けられるが、それよりも気になるのは、道路標識だ。商店街のアーケードの中に歩行者専用の標識や、20キロの速度制限標識がある。夜間は国道として車で走れるのだから、当然といえば当然だが、違和感は否めない。

アーケード酷道を堪能していると、時刻は20時に近づいていた。そう、20時になると規制が解除され、自動車で走行することができるのだ。わざわざ暗くなる時間に訪問したのは、このためだ。

駐車場に戻ろうとしたが、商店街の人通りに変化はなく、相変わらず賑わっている。そこへ、前後から次々と車が進入してきた。歩行者、原付、自動車が入り乱れ、大変な状況になっている。これは、山間部の酷道よりも、ある意味過酷で走りにくい。ひと口に酷道といっても色々な酷道があり、時としてシーンを選ぶ。この酷道170号の真骨頂は、20時過ぎにやってくる。

商店の脇にある速度規制標識。

二つの商店街の間には踏切があり、遮断機が下りると人や自転車がどんどん増えてゆく。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/