【vol.49】無残な姿になったツリーハウスを前に呆然と立ち尽くすしかなかった

2019年、本州を襲った台風19号は関東全域に爪跡を残した。僕の森にもそれは起きた。ツリーハウスの崩壊だ。森を流れる川は氾濫して濁流と化し、林道の一部を押し流した。自然に従い生きる。北欧ではルオムと言う。まさにルオムとして生きる時がきた。

写真・文/荒井裕介

自然を受け入れ逆らわぬことが生きる道

猛威を振るった台風19号。僕の住む千葉県は大きな被害が発生し、たくさんの人を苦しめた。また近県では川が氾濫し犠牲者も出た。大災害だった。そしてこの台風で僕の森も破壊された。林道は流され、ツリーハウスは見るも無残な姿になったが、やられた! という気持ちにもならなかった。もちろん驚きはあったが、何故か直せると思っていた。自然の中に手作業で作ったのだからまたコツコツやればいいと思えた。野営をしながらここに住処を作ろうとしてきたのだから、また野営から始めればいい。命があってまたこの森に戻れたことに感謝し、小屋を支え落下を防いでくれた樹々に感謝した。

北軽井沢のスウィートグラスの系列に「ルオムの森」という施設がある。そこで知ったのは自然に従い生きるということを北欧の言葉で〝ルオム〟と言うのだそうだ。ルオム。穏やかなその響きには強い心が込められている。僕も自然に従い自然と共に生きようと思う。それがブッシュクラフトの生き方であり、僕の理想なのだ。勝てるはずのない偉大な自然に少し強くされたような気がする。

ジャッキとハンドツールを運び入れ、すっかり葉の落ちた初冬の森で再び〝生きる〟を取り戻す。各地で被害にあわれた被災者の方々が強く復興に向けて進むように、僕も一人ここで復興作業をする。これからこのような災害が増えるかもしれない。自然の変化に僕たち人間も早足でついて行かなくてはならない。自然と共に生きるために。

台風19号は東北にも被害をもたらした。北関東のこの森でも強風が吹き荒れツリーハウスの土台となる枠が無残にもへし折れた。別構造で組んだ小屋はほとんど無傷ですんだ。重さ400kgを超える小屋を元に戻すのだ。

森に棲むなら自然の猛威への対応力を養いたい!?
壊れたツリーハウスを修繕する

あっけなく破壊されたツリーハウス。自分で建てたからこそ構造も理解している。まだ立て直せる。持っている道具だけで修復してみせる。これは僕の夢だから進むしかないのだ。またコツコツやればいい。自然と共に生きるにはその力が必要だ。

基礎部分を補強する

折れた枠の柱に副え木をしてジャッキアップする。割れが元に戻る位置でさらに副え木をしてコーチボルトで固定する。油断すれば落下に繋がる作業は緊張が続いた。それでも4本のナラの木のおかげでなんとか繋ぎ合わせることができた。

柱を追加するのに筋交いが邪魔になったので切断。筋交いから力が逃げるようにジャッキを噛ませる。柱を追加し、コーチボルトで留めるのだが太いコーチボルトを入れるのには長いレンチが必要だった。ダメになったトルクレンチで代用してなんとかなった。

柱を追加する

ジャッキアップは少しずつ行うために、少しずつ高さをあげながら柱で支えるようにしていく。補強後この柱は取り除くのだが、力のかかり具合では大きくしなってしまうのでバランスをとりながら設置しなくてはならなかった。補強修理後新たな柱と変わる予定だ。

ジャッキアップするのは1点だけ。長い柱をバランスよく上げるには、力がかかる部分に補助柱が必要になる。ジャッキアップの高さを上げる度に微調整し、リフトのバランスを整えるように注意しておかなくてはならない。

2tと3tのフロアジャッキで左右のバランスをとりながらリフトアップしていく。ジャッキは油圧のものだが全て手動だ。電気がないからしょうがないが森では重機を入れる道もないし、それでは僕の力ではなくってしまう気がする。

ほぼ水平に戻ったツリーハウス。ここからさらに作業は難しくなる。新しい柱を折れた柱の下に通すのだ。ジャッキで上げた古い柱を仮留めし、ジャッキを緩めて柱を入れ直す必要がある。全ての作業が神経を消耗させる。

ブッシュクラフター 荒井裕介

本当に肩書きに悩む山岳写真家。階段が完成したと思ったらツリーハウスが落ちたことに森で一人で笑い出し、自分のポジティブさに気が付いた孤独のブッシュクラフターでもある。来号までに新しい肩書きとツリーハウスを完成させようと思う。

1 個のコメント

  • あたしも ログハウスを制作中どす
    あなたのログハウスはたぶん台風でなくても
    住めなくなりますよ
    なぜなら 複数の立ち木に土台がかけられています 1年で 土台が不当成長するからです

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