【vol.49】酷道491号

ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。

今回の酷道

とにかく狭い!
日本最狭クラスの酷道
山口県下関市〜山口県長門市

山口県の下関市から長門市を結ぶ延長50㎞ほどの短い国道。この国道491号を目指すべく、夜遅くに岐阜でレンタカーを借りた。コンパクトカーで予約したにも関わらず、プリウスが用意されていた。予約していた車が用意できなくなったため、同料金で上位クラスのプリウスを手配したとのことで、店員さんはドヤ顔だ。これから酷道巡りの旅に行くとも言えず「大きな車で嬉しいです」と言うしかなかった。

高速道路でワープし、早朝から岡山・広島の酷道を走りながら西に移動。山口に到達する頃には、夕方近くになっていた。早速、下関市の起点から国道491号を北上する。

郊外の快走路をドライブしていると、酷道は突然やってくる。最初の難所、貴飯峠では、いきなり眠気も吹き飛ぶ狭さになった。レンタカー屋の過剰サービスにより、車幅だけではなく、心にも余裕がなくなる。

沿道に目をやると、山口県の特徴であるオレンジ色のガードレールが目に入った。1963年に山口県で国体が開催された際、県が管理する道路のガードレールを、特産品である夏みかんの色に塗り替えたのだ。しかし、今走っている道路は腐っても国道だ。県道じゃないのに、なぜオレンジ色になったのか。

国道には、国が管理する直轄国道と、各都道府県や政令指定都市が管理する補助国道とがある。つまり、オレンジ色のガードレールは、ここが山口県であることと、国道491号は県が管理する補助国道であることを同時に示している。

貴飯峠手前の“最狭”区間では、プリウスでギリギリの道幅しかない。レンタカー屋の店員は、自分がここに来ることが分かっていて、わざとプリウスを用意したんじゃないか。あっ! あの時のドヤ顔は、まさか! などという妄想も浮かんでくる。

貴飯峠を下ると、しばらくは2車線の快走路となる。長門市との境界が近づいてくると、再び1車線の酷道に豹変した。貴飯峠には“大型車通り抜けできません”の看板があったが、こちらは〝大型車通行困難〟になっている。困難ということは、不可能ではない。こちらのほうが、幾分か良い道だと想像できる。

実際に走ると、幅員は少し広い気がするが、路面状態が酷かった。小さな落石が転がり、落ち葉と木の枝が路面を覆い尽くしている。これはこれで、酷道に間違いない。

酷道区間を抜けると、道路改良工事が進められていた。高規格な直線道路と長大トンネルによって、山をぶち抜く計画らしい。トンネル工事が完成したら、この酷道区間は失われてしまうだろう。

終点に着く頃には、すっかり日が暮れていた。ずっと山の中を走っていたので、街が恋しくなる。久しく見ていないファストフードの“M”のマークが見えたので吸い込まれそうになったが、近づくと“この先25㎞”と書かれていて絶望感に襲われた。酷道マニアには、常に生きる道としての酷道が求められている。

貴飯峠には国道標識(オニギリ)が立っていた。酷い区間にオニギリがあると嬉しい。

長門市側では改良工事が進められ、立派な橋が架けられていた(左)。トンネルも完成すれば、右側の酷道区間は消滅してしまうだろう。

鹿取茂雄

酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/